黒木華「ステージ上でいろんなことが起きるので、“ちゃんと体力をつけないとダメだな…”と思いました(笑)」舞台「ウェンディ&ピーターパン」

特集・インタビュー
2021年08月13日

黒木華インタビュー

世界的に有名な『ピーターパン』の小説版を新たな視点で大胆に翻案した「ウェンディ&ピーターパン」。2013年にイギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによって上演され、話題を呼んだ本作の日本初上演に黒木華さんがウェンディ役で挑む。本番を直前に控えた彼女に作品の魅力、役への思い、そして戯曲に込められたテーマについてお話を伺った。

 

◆まず、出演が決まった時のお気持ちから聞かせてください。

すごくうれしかったです。演出のジョナサン(・マンビィ)とは2016年の『るつぼ』で初めてお仕事をさせていただき、「また一緒にやりたいですね」と話していたんです。それに、今回の作品はみんなが知っている『ピーターパン』の物語を、脚本のエラ(・ヒクソン)さんがウェンディの視点で描いたものなんです。女性の社会的な立場や成長などが表現されていて、ウェンディはもちろん、タイガー・リリーやウェンディのお母さんなど、それぞれの女性がきちんと前を向き進んでいくところが新しくもあり、刺激的だなと感じました。

◆ジョナサン氏の演出は二度目となりますが、どんなところに面白さや魅力を感じていらっしゃいますか?

まず、すごく丁寧なんです。そして、それぞれの役者の良いところを見つけて、引き出してくれる。その上で、役者の挑戦も喜んでくださるんです。今回の稽古場には初めてジョナサンの演出を受けるキャストもいて、そうしたキャストの戸惑いもジョナサンは楽しんで見ているような気がしますね(笑)。また、この作品はすでにイギリスで上演されていて、ジョナサンにとってはすごく大きな意味のある舞台とのことで、今回の日本初上演に向けて、さらにバージョンアップされているとも聞いています。演出を受けていても、ジョナサンがいろいろ模索している様子が伝わってきます。

◆ウェンディについてはどう演じていこうとお考えですか?

稽古をしている中でウェンディは、家族に大きな影響を与える存在だと感じています。壊れかけた家族を自分がなんとかしないといけないと思っている。その思いは、ネバーランドに着いてからも持ち続けていて、それとどう向き合っていくかが、ウェンディのテーマだと思っています。

◆今作におけるピーターパンは、ウェンディにとってどのような存在だと思いますか?

ウェンディの想像の中の登場人物なのかなと思います。それはピーターに限らず、フック船長も同じで。その中でも、ピーターはウェンディが思う理想のヒーローであり、目の前に現れて欲しい人物の象徴なのかなと。と言うのも、ジョナサンから以前、「フックはウェンディが想像する大人の男性なんだ」という演出を受けました。魅力的で、ちょっと危ない存在。その話を伺い、ウェンディと同年代のピーターは、自分を助けてくれる理想の男の子なのかなと。強くて、アグレッシブで、怖いもの知らずだけどセンシティブな一面もある。そこは、これまで描かれてきたピーターと大きな違いはないと思います。

◆そのピーターを演じるのが、ダブル主演の中島裕翔(Hey! Say! JUMP)さんです。また、フックとウェンディの父親の二役を堤真一さんが演じるなど、豪華な顔ぶれが揃っていますね。

中島さんとは初共演になります。一緒に稽古をしてみての印象になりますが、とても真面目で素直な方だなというのが演技からも感じられます。それに、身体能力がすごく高いんです! 今回の舞台には殺陣やフライングなどいろんなアクションがあるのですが、全部一発で覚えちゃう。そうしたところはまさにピーターにピッタリだなと思いながら、毎日稽古を見ています(笑)。堤さんとは今までにも何度かご一緒させていただいていて、堤さんご自身も実生活ではお父さんということもあり、安心感がありますね(笑)。子どもたちとのやりとりもとても自然で。それに、とてもユーモアのある方で、違和感なく父娘の関係が築けているように思います。

◆では、そうしたカンパニーを引っ張る上で、座長として意識されていることは?

あまり座長という自覚がなく、座長としてやれていることと言えば、差し入れするぐらいです(笑)。若い方が多いカンパニーということもあって、普段から和気あいあいとしています。作品自体もものすごくエネルギーがいるので、稽古中はみんなのパワーがみなぎっています。また、今作にはシャドウというピーターパンの影を演じる方々がいらっしゃって、シャドウの皆さんがいなかったら舞台が成り立たないと思うぐらい私たちができないフィジカルな部分を担ってくださっています。とても活気に満ちた、楽しい稽古場になっています。

黒木華インタビュー

◆見どころの多い舞台になりそうですね。

はい! 人間模様も、アクションも全部が面白いです! 個人的にはウェンディとタイガー・リリーとティンクの女子3人組のシーンがすごく楽しくて(笑)。“男子たちには負けないぞ!”という気持ちになってます(笑)。また、衣裳や舞台装置もイギリスのスタッフの方々とのコラボレーションでできた素晴らしいものになっています。お子さんだけでなく大人の方にも、楽しんでご覧いただける舞台になっていると思います。

◆稽古は順調に進んでいるそうですが、全体を見渡してあらためてどのような作品になっていると感じましたか?

出演する側としては、とても忙しい舞台だなと思いました(笑)。ステージ上でいろんなことが起き、舞台装置もマジカルなものだったりします。“ちゃんと体力をつけないとダメだな…” というのが、正直なところです(笑)。その分、お客様は観ていてすごく楽しいと思いますし、“多くの方に愛される作品になるだろうな”と感じました。本番に向けてさらにブラッシュアップしていきますし、ジョナサンもより細かく指導してくださると思うので、そこもまた楽しみたいと思っています。

◆ちなみに、黒木さんは『ピーターパン』にどのような思い出がありますか?

私の中の『ピーターパン』はディズニー映画です。タイツを履いた少年が空を飛んでいるイメージ(笑)。子供のための物語であり、夢の世界にいざなわれる印象がありました。ただ、今回はエラさんの脚本によって大きく印象が変わりました。

◆本番がますます楽しみになりました。

ぜび期待していただければと思います。ステージ上ではいろんなことが巻き起こりますので、日常を忘れて作品の世界に入り込めると思います。舞台のいいところは、登場人物に自分を重ねたり、自分の身の回りの人たちを思い浮かべて共感できるところだと思うので、その醍醐味を味わっていただきたいです。また、私自身は昨年の『桜の園』が公演直前で中止になってしまったこともあり、久々の舞台になるので、純粋に舞台の空間を楽しみたいなと思っています。

PROFILE

黒木華
●くろき・はる…1990年3月14日生まれ。大阪府出身。2010年、NODA・MAP番外公演「表に出ろいっ!」で本格的にデビュー。その後、映像作品やアニメの吹き替えなどでも活躍。2014年の映画「小さいおうち」でベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞。最近の出演話題作に映画「浅田家!」、ドラマ『凪のお暇』『イチケイのカラス』など。映画「先生、私の隣に座っていただけませんか?」が2021年9月10日公開予定。

作品情報

DISCOVER WORLD THEATRE vol.11「ウェンディ&ピーターパン」
2021年8月13日(金)~9月5日(日) 東京・Bunkamuraオーチャードホールで上演

(STAFF&CAST)
作:エラ・ヒクソン(J.M.バリー原作より翻案)
翻訳:目黒条
演出:ジョナサン・マンビィ
美術・衣裳:コリン・リッチモンド
出演:黒木華、中島裕翔、平埜生成、前原滉、富田望生、山崎紘菜、玉置孝匡、石田ひかり、堤真一ほか

(STORY)
ロンドンにあるダーリング家ではウェンディ(黒木華)やジョン(平埜生成)、マイケル(前原滉)、トム(下川恭平)が戦争ごっこをして遊んでいた。両親のミスター&ミセス・ダーリング(堤真一、石田ひかり)は優しく、誰もがうらやむ幸せな家族に思えたが、体の弱いトムがいなくなってからは、少しずつ家族に溝が生まれ始める…。それから一年後、ダーリング家の子供部屋にピーターパン(中島裕翔)が現れる。ウェンディらは、弟を探すためネバーランドにピーターとともに旅立つ決意をする。

photo/関根和弘 text/倉田モトキ