片桐はいりインタビュー「心のどこかに置いておくような作品になってほしい」『東京放置食堂』

特集・インタビュー
2021年09月29日

現在放送中のドラマ『東京放置食堂』(テレビ東京ほか)で主人公の真野日出子役を演じる片桐はいりさん。本作の舞台は、東京都にある大自然の宝庫「大島」。数多くの被告人を裁き、更生させてきた曲がったことが大嫌いな元裁判官役・日出子が、渚(工藤綾乃)との出会いがきっかけで働き始めた大島の居酒屋「風待屋」で、ゆったりとした時間の中ではぐくまれる人間模様に心を癒されていく。そんな日出子を演じる片桐さんに、本作の魅力や役作りについて、さらに毎回「大島」を訪れるゲストの印象などを聞きました。

◆オファーを受けた時の感想を教えてください。

最初に、資料を頂いたのでそれを読んで、主演というのは何かの間違いかなと思いました。あと、大島と書いてあったので、東京都江東区の大島だと思って。すごい珍しいのを撮るイメージなんだろうなぁと思っていたら、伊豆大島だと分かり、「えぇー!」というのが最初の印象でしたね(笑)。

◆出演の決め手となったのはどのあたりでしたか?

大きな決め手として、50代の人が主演とかメインで活躍する仕事はそんなに頂けるものじゃないと思うんです。逆に言えば、私と同世代の女性が大活躍するドラマが日本にはすごく少ないなぁと思っていたんです。男の人や、きれいでかわいい女の子ばっかりではなくて、同世代の女性が七転八倒しているドラマや映画を私が見たいなぁと常々思っていました。人類の半分は女の人なんだから、半分の主演は女の人であってほしい。しかも4050代の女性が活躍できないってどういうことなんだろう? といつも思っている部分があったんです。なので、私がやらなくてもどなたかがおやりになるとは思うんですけど、ここで少しずつでも変化させていかないと、次々面白いことが起こらないよねって気持ちはありましたね、生意気ですけど。でも、これで失敗したら「50代が主演じゃあやっぱりダメだ」ってなると困るので一生懸命なんとかしなきゃいけないと思っています(笑)。

◆片桐さんが演じられる日出子の第一印象はいかがでしたか?

きっちりしていて、曲がったことが嫌いで、真っすぐ生きてきたという型どおりの印象もあるんですけれど、同じ50代の女、そして、仕事に一途に生きてきた女として「もう限界だよ!」みたいな気持ちが何となく分かるような気がして、共感を覚えました。定年まではまだあるんだけど、ずっと頑張ってきたんだろうなぁって。私たち昭和30年代、1960年代とかに生まれた人間は何となく世の中は右肩上がりになっていくものだと信じて生きてきたところがあるんですよ。そういう人間にとって「え!?」って思う瞬間が訪れたのではないかと思いました。

◆演じる上で意識したことはありますか?

“お説教するような性格ってどうなの?”って考えた時に、“あっ!「男はつらいよ」の寅さんって自分は恋愛成就していないにも関わらず、ものすごく恋愛の話をうまくするよね”と自分の中で思い出して。“日出子を寅さんだと思えばいいんだ!”とひらめいたんです。それに加えて、日出子はお説教というより、どこかで聞いたような真っ当なことを言うニュアンスで捉えています。上から人に物を言うというよりは、一生懸命真っ当なことを言おうとしてる人を演じたいなと思っています。自分が未熟なのに、お節介心で真っ当なことを言ってしまいたくなる人という感じですかね(笑)。

◆大島でのロケはいかがですか?

大島では車は時速40キロで走らないといけなくて。信号はなくてもいいんだけど子供たちが東京とか都会に出て行った時に信号を見てびっくりすると困るからとりあえず作っておこうみたいなことで信号があるらしんです。そういうゆっくりした時間の中にいて、今すごく気持ちがいい。大自然に囲まれた大島の中にいると、もう細かいことなんか言ってられない! みたいな気持ちになるんです。 “お天気に対して文句言ったって、しょうがないじゃん!”って気持ちになれるんです。撮影はすごく大変ですけど、気持ちはとても健やかです(笑)。

◆毎話登場する大島名物の“くさや”はいかがでしたか?

においがもうすごかった…。焼く立場なので、「はぁ…」と思いましたけど、食べたらおいしいし、お酒をそんなにがぶがぶ飲むタイプじゃないにも関わらず、「焼酎欲しいね~」って思う味ですよね。私も、劇中に食べるシーンが出てくるんですけど、わりとリアルなくさや初体験の反応をしました。それは、臭いにおいをかぐとちょっと笑っちゃうみたいなことないですか? 険悪な雰囲気の中でも「ふふ」って思わず笑っちゃうみたいな。初めて焼いた時に思った気持ちがその感じだったので、そういうふうに演じました。毎回、くさやが水戸黄門の印籠のように出てきて、いろんな人の体と心に衝撃を与えていくような話なんです。炙っていると、髪の毛とか体にもにおいがついて、お店の中が2~3日はむわっとにおうんです。本当に臭くて撮影はすごくつらいです(笑)。

 ◆毎話ゲストの方が出演されるのも見どころだと思います。第3話(9/29放送)には竹中直人さんが出演されます。共演はいかがでしたか?

1話のゲスト・近藤公園さんも竹中さんも、偶然ですけど役でも現実でも昔から知っている人というのが不思議なご縁でしたね。相変わらず真面目にやってらっしゃったかと思ったら、急にたがが外れたようになったりされていました(笑)。竹中さんの役はつらいものだったんですけど、楽し気に演じてくださる竹中さんを見て、みんなが楽しくなるみたいなすてきな現場でした。

◆第4話(10/6放送)には前田敦子さんが出演されます。

前田敦子さんはカッコよかったです、すごく。「THE プロ!」みたいな感じでした(笑)。私なんかはほれぼれとしてしまいましたよ。パっとお仕事して、パッとお帰りになられて、颯爽としていらっしゃいました。暑い中でウエディングドレスを着ている役でしたが、何一つ文句も言わず、本当にカッコいいと思いました。

◆ゲストの皆さんのくさやに対する反応はいかがでしたか?

くさやリアクションは皆さんそれぞれだなぁと。近藤さんは役としてオーバーにやってくださいっていうので「うわー!」とやっていました。桜井玲香(第2話ゲスト)さんはそんなにすんなりお食べになって大丈夫ですか? みたいな感じでした(笑)。よく召し上がっていましたよ。前田さんは焼く時のにおいから強烈なのでその時点で「私ちょっと無理そう…食べられるかしら…」って仰ってたんですけど、本番でグサッ! ってやったらものすごい大きな塊が取れちゃって。そのまま食べられたら、その後は「あ、なんか意外と平気~」って残った分も完食してお帰りになられていました(笑)。本当にさっぱりしたすてきな方でした。役の反応とご自身の反応がそれぞれ違うので、私は二通り楽しんでいます。それぞれの食べ方とかも違うので毎回面白いなぁと思いながら見ていますね。

◆日出子の説教が心に響くように、片桐さんの心にずっと残っている言葉はありますか?

岩松了さんという俳優でもあり、演劇界では作・演出・劇作家をされていて。私は何回か舞台に出させていただいているんです。その岩松さんに「片桐はいり一人芝居 ベンチャーズの夜」という作品を作っていただいて、全国を回っていたことがあったんです。今、このドラマをやるにあたってふと思い出しているのは、「とりあえず、自分の見た目と声だけ信じとけ」という言葉です。見た目も声も、もう変えられないんだからって話ですよ(笑)。とりあえず、それだけ信じとけみたいなことを言われたので、今信じます。もちろん信じ難い時もいっぱいあるけれど、私はこの言葉を信じてやります。

◆ドラマを通じて、伝えたいメッセージがありましたらお願いします。

メッセージというか、東京都である必要はないかもしれないけど都会の暮らしから船で約1時間45分の所に離島があり、そこにはこんな暮らしがある。しかも、ふらっと行ける所にこんな原始の島みたいなものがあるんだということを、週の半ばに風景を見て知ってほしいです。ちょっと疲れがって時にそういう景色を見ていただきたいですし、少し休めばあそこに行けるんだ! と思っていただけるとうれしいです。私も東京に帰って仕事に戻った時に、「ちょっと休めば大島に行けるんだ!」ってきっと考えると思うんですよね。そういう場所があるって、重要な気がするんです。心のどこかに置いておく作品として、このドラマがそうなるといいなぁと思っています。

PROFILE

片桐はいり
●かたぎり・はいり…1963118日生まれ。東京都出身。最近の出演作にドラマ『ひねくれ女のボッチ飯』、映画「キネマの神様」などがある。また、2022年前期放送の連続テレビ小説「ちむどんどん」(NHK総合ほか)に出演が決まっている。

番組情報

『東京放置食堂』
テレビ東京ほか 毎週(水)深110140

STAFFCAST
監督:アベラヒデノブ
脚本:和田清人
出演:片桐はいり、工藤綾乃、与座よしあき、松川尚瑠輝、梅垣義明ほか

(2021年929日(水)放送 第3STORY
六法全書を読む日出子(片桐)に男の子が近づいてくる。男の子は、日出子に「裁判官だったから、悪いやつに恨まれてない?」と尋ねられる。その言葉を聞いたせいか、夕方、渚(工藤)と歩いている時に、背後に誰か付けてきていないか気になってしまう。そんな予想が的中したのか、大島に山中正平(竹中直人)がやって来る。「女にケジメをつけに来た」という正平。その女とは、まさかの日出子…!? 果たして、二人の間には一体何があったのか…。

 

公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/houchishokudo/

©「東京放置食堂」製作委員会

text/浅野明菜