遊川和彦、初タッグを組む松本潤は「究極の秀才型」…『女王の教室』『家政婦のミタ』とは違う異色の主人公に込めた思い

特集・インタビュー
2022年03月17日

松本潤さんが主演を務めているドラマ『となりのチカラ』(テレビ朝日系 毎週(木) 後9・00)。松本さん演じる中途半端で半人前な主人公・中越チカラが、お隣さんたちの抱える問題に“中腰”ながらも首を突っ込み、解決の手助けをする社会派ホームコメディだ。脚本・演出は、松本さんと初タッグとなった遊川和彦さん。これまでドラマ『女王の教室』(2005年)、『家政婦のミタ』(2011年)などで“強くたくましい孤高の女性像”を描いてきた遊川さんにとって、チカラは異色の主人公と言える。そんなキャラクターに込めた思いを遊川さんに伺いました。

中越家は夫のチカラ、妻の灯(上戸彩)、2人の子どもたちの4人家族。一家が引っ越した先のマンションには、さまざまな問題を抱えた隣人たちがいた。思いやりと人間愛が人一倍あるチカラは、悩める人を放っておくことがどうしてもできない。とはいえこのご時世、ご近所問題に首を突っ込むお節介な人物は珍しい。そんなチカラ役を、遊川さんはあえて松本さんに託した。

「松本さんのようなカッコいい方がカッコいい役を演じるとリアリティーを感じられない。だから、情けなくてカッコ悪い役を演じてもらいたくて。正直、最初は松本さんにこの役は合わないのではないかと不安もあったんです。でも、本読みをしてからそんな不安は消えました。一見クールなイメージのある松本さんがチカラを演じた方が、心の奥にある優しさがより感じられる。優しいイメージの方が優しいキャラクターを演じても、インパクトがないですからね。松本さんが演じるチカラを見て、“ああ、彼にお願いして良かった”と感じました」

異色の主人公は、松本さんにとっても新境地と言える。チャレンジングな役柄に挑んでいる“役者・松本潤”は、遊川さんの目にどのように映ったのか。

「一番すごいのは、全ての表現を理論で構築しているところ。徹底的に正確さを追求しているんです。例えば地面に落ちたものを拾うシーンでも、どのタイミングでどれをどう拾うのか、画面に映っていないところまで突き詰めるんです。整合性が取れていないと芝居ができないんでしょうね。細かい動きまで正確に表現しないと気が済まないのが松本潤という役者なんだと思います。それでいて、僕が後で注文をつけるであろう点も計算に入れて演技に反映しているんだから、すごいのひと言です。彼は究極の“秀才型”ですね」

遊川さんが松本さんに対して要望したこと。それは、「とにかくカッコよく演じないでほしい」ということだったそう。

「あの松本潤が普通に演じたら、当然カッコよく見えてしまう。なので『オドオドしてほしい』『シーン終わりにキメ顔を作らないでほしい』、あとは『声を低くするとカッコよくなってしまうので、できるだけ高めに出してほしい』などともお願いしました。松本さんは苦労したと思います。自身とは正反対な役ですからね。リアリティーも魅力も両方兼ね備えた主人公にするにはどうすればいいか。細かいところまで話し合って、お互いの“中越チカラ像”をすり合わせていきました。お節介で気の良い人物が、ただ良いことをして終わるドラマにだけはしたくなかったんです」

チカラが向き合う住人たちの問題は、どれもそう簡単に解決できるものではない。虐待やヤングケアラーなど、現代社会の問題が反映されている。

「私たちの周りには問題がたくさんある。でも最近は、自分のことだけをやっていればいいという“自分主体”な人が増えている気がしたんです。ふと目を上げたら、家族の誰かが困っているかもしれないし、隣に住む人がとんでもない悩みを抱えているかもしれない。少しだけ周りの人のことに目を向けてほしかったんです」

特に遊川さんが取り上げたかったのは、ヤングケアラー問題だという。劇中では、認知症の祖母・清江(風吹ジュン)と高校生の孫・託也(長尾謙杜)を通して描かれている。

「もし自分の身近に祖父母の世話をする若者がいたら、どう行動するだろうかと思ったんです。託也の場合は成績も良くて、生活態度も申し分ない。そんな彼が実は清江を一人で介護しなければならない状況にいる。一体誰が助けてくれるのか。自分だったら何ができるのか。それを描くことは、ドラマとして意味を持つのではないかと想像しました」

6話(3月10日放送)のラストでは、灯が「これ以上、チカラ君といたくないの」と言い出し、実家に帰ってしまった。今後はチカラの家族、そしてチカラ自身にも焦点が当たっていくことになりそうだ。

「住人たちの問題がひととおり落ち着きつつありますが、言わばここからが本当の見どころ。実はチカラ自身も大きな問題を抱えていて、それと向き合うことになる。“自分とは何なのか”という問題を突きつけられ、その答えを探していくんです。これまでの前半部分とここからの後半部分で作品の色がガラリと変わるので、楽しみにしていただきたいです」

これまで作品作りにおいて、「視聴者が自分のこととしてとらえられる物語を紡ぎだせるかどうか」を常に大切にしてきたという遊川さん。本作でもその思いは変わらない。

「もし視聴者の皆さんの身の周りに問題を抱えている人がいたら、自分には何もできないと思わず、優しい言葉をかけたり、話を聞いたりしてあげてほしい。『となりのチカラ』がそのきっかけになったら、すごくすてきだなと思うんです。たった1人でもいい。誰かの行動を変えられる影響力がドラマにはあると僕は信じています。そういう希望を持ちながら、これからもドラマを作っていきたいです」

●text/北村 有

©テレビ朝日