小池栄子インタビュー「まだまだ政子でいたかった」『鎌倉殿の13人』

特集・インタビュー
2022年12月07日
『鎌倉殿の13人』政子(小池栄子)©NHK

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜 午後8時~8時45分ほか)で、政子役を務める小池栄子さんにインタビュー。クランクアップを迎え、政子を演じ切った今「まだまだ政子でいたかった」と語る小池さん。政子と3人の鎌倉殿、そして変わりゆく弟・義時(小栗旬)と向き合う日々を支えたものとは…。1年半に及んだ撮影を通して感じたことを聞きました。

小池栄子 インタビュー

1年半に渡る撮影を終えられて、今感じていることを教えてください。

想像していたよりもずっと、私自身が北条政子という人間を愛していたんだなと感じています。まだまだ政子でいたかった、もう一度初めから演じたいと思うぐらい、政子に魅了された1年半でした。もう演じることができないので心から寂しいなと思いますし、小栗さんが作り上げた『鎌倉殿の13人』の現場はとても温かくて心地がよくて、そんな場所に通うことが生活のルーティンになっていましたから仲間たちと離れる寂しさもあります。
クランクアップから時間がたちましたが、まだ放送が残っているのでなんだか変な感じがします。でも、私たちの手元からは離れてしまったので、あとは視聴者の皆さまの力によって盛り上げていただきたいという気持ちがすごく大きくて。賛否両論巻き起こるであろうラストになっていくと思うので、どのように受け入れられるのかというのは楽しみでもあり、不安でもあります。それぐらいの脚本を三谷(幸喜)さんが書き上げてくれました。

◆本作におけるご自身について、振り返ってみていかがですか?

三谷さんの希望であり、かつ私自身も目標にしていた“新しい政子像”をお示しすることができたのではないかなというのは、自信を持って言えます。三谷さんからは、具体的に“こうしなさい”“ああしなさい”といった指導をいただくことはありませんでしたが、私が「正直悩んでいます」とメールで伝えたり、「寂しさと緊張で寝れないです」というような愚痴のようなものを一方的に聞いていただくことがありました。

◆政子は源頼朝(大泉洋)、頼家(金子大地)、実朝(柿澤勇人)と三代に渡る征夷大将軍を見守ってきました。

今考えてみると、もしかしたら3人の中では頼朝が1番癖がなかったのかなと思います。彼は彼なりの夢を追って突き進んでいきましたが、決していい旦那、いい父親でなかったわけではないし、ちゃんと私と向き合ってくれたり、かわいらしいところもあって。そして何より、みんなが憧れるカリスマ性もありましたよね。その一方で、頼家には反動で屈折した感じがありましたし、実朝は実朝で私が頼家を失ったことから過保護にしすぎて、腫れ物に触るように接してしまったので。やっぱり子供がどういう人間になっていくのかというのは親の影響が大きいじゃないですか。政子はダメな親だったなという感想が残っています。でも、3人ともすごく大切な存在でした。幸せになってほしかった。そうできなかったのは自分の責任だったなと、終わった今もすごく感じています。

『鎌倉殿の13人』左から)源実朝(柿澤勇人)、政子(小池栄子) ©NHK

◆政子の強さはどこから来るものだと思いますか?

子を失った悲しみに勝るものはないと思って演じていました、後半は特に。実朝が亡くなった時点で一度死んだような気分になっていたので、それからは腹をくくって自分のやるべきこと、やらなければならないことにまっしぐらになろうと。そうして見渡したときに、最後に対峙しないといけないのはやっぱり義時なんだろうなと。姉としてどういうふうに彼と向き合っていくのかという課題が残されていたんだと思います。

◆回を重ねるごとに変化していく義時について、政子、そして小池さんご自身はどのように感じていましたか?

義時が変わっていく様子や苦しんでいる姿は、側で見ていて自分のことのように苦しかったです。やっぱり私が頼朝と一緒になったことが北条家が変わっていく大きなきっかけの一つになったわけですから、義時が変わっていけば変わっていくほど、自分が巻き込んでしまったなとか、それを選択しなければということを強く感じていましたね。
そして、小栗さんってすごく素直な方なので、つらいときは「つらい」って言うし、悔しいときは「悔しい」って言うんです。本当に義時が憑依しているかのように現場にいらっしゃることがあるんですけど、そんなときに私は「頑張ってね」としか言えなくて。姉・政子として情けないなと思いましたし、同じ役者としてももっと頼もしく支えてあげることができたらいいのにとやきもきしましたね。でも、夏ごろに小栗さんが「最後までとにかく一緒に、地獄を見ようが頑張ろうね」と言ってくれて、それがすごくうれしかったです。やっぱり家族、きょうだいで始まった物語ですから、きっと最終的に三谷さんは家族の話で終わらせるんだろうなとは思っていましたが、撮影が進んでいくうちにどんどん御家人がいなくなっていって、撮っても撮っても人が増えず、ずっと家族だけで1日撮っているみたいな日もあって「本当に家族しかいないね」と言っていました。でも「家族の物語が家族で終わるのは幸せだよね」とも話していましたね。一年半彼と一緒に過ごしてきて、役だけど本当に家族のようになれたなと思いました。

◆三谷さんの脚本の魅力を教えてください。

例えば1回だけ、あるいはワンシーンのみの出演となる役者に対しても、その方が輝くような人物像と登場の仕方を用意されるんですよね。みんなが三谷作品に出たいと言うのは、そういうところにあるんじゃないかなと。いわゆる“死に役”と言われるような人が誰1人いなくて、誰が欠けても成立しなかった作品がこの『鎌倉殿の13人』だと思います。そして、役の人間性をいろんな角度から深掘りして、しかもそこに笑いの要素を入れてくるというのは、三谷さんならではの技ですよね。皆さん圧倒的な存在感を残して去っていかれるんですけど、そんなふうに書ける方って珍しいと思うんです。

◆印象に残っているシーンはありますか?

大好きだったのは、落ち込んでいる小四郎(義時)のところに餅を持っていったシーン(22回/65日放送)。今でもあそこに戻りたいと思うぐらい、すごく好きな時間でした。あのときの義時の顔は初期の義時と変わらなくて、“まだあのときの彼が残っているという安心感があったんです。きっと、今の義時を慰めに行ってもあの笑顔は引き出せないと思いますね、来るところまで来てしまっている気がします。あの辺がもしかしたら昔の義時の面影があるギリギリのラインだったのかな、楽しかったなそんなことを考えながら、ふとしたときに思い出すことが多いシーンです。

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