INORANインタビュー「“音楽を作ることを止めなくて良かった”という実感が一番大きい」

特集・インタビュー
2021年10月22日

昨年9月末に13thアルバム『Libertine Dreams』、今年2月に14thアルバム『Between The World And Me』とこれまでにない速いペースで、新たな作品を生み出してきたINORANさん。そのアルバム3部作の完結編と位置付けられた15thアルバム『ANY DAY NOW』が、10月20日にリリースされた。コロナ禍においても決して止まることなく音楽を作り続けてきた彼へのインタビューから、その内面の変化と新作に込めた思いに迫ります。

◆コロナ禍に突入してもう2年が経とうとしている中で楽曲制作を続けられてきたわけですが、ご自身の中で何か変化はありましたか?

去年とは、明らかに違いますね。今まであったものがなくなったことを嘆くよりも、未来を見るというか。“明るい未来を想像する”という感じにはなりました。

◆そういった心境の変化が、今作『ANY DAY NOW』にも出ているように感じます。

やっぱり(今作は)前の2枚とは、明らかに違いますよね。

◆開放感があるというか。過去2作を経て今作は“3部作完結編”ということですが、最初からそういう構想があったんでしょうか?

いや、そこは(今作が)出来上がってからですね。こんな状況の中でも、(自分は)アルバムを出せる環境にあって。レコード会社のスタッフやクリエイティヴチームに関しても同じメンバーでやってきたので、そういう意味での“3部作”というか。“このコロナ禍でみんなで作り上げた3部作”という意味合いが強いです。

◆なるほど。そういった意味での3部作だと。

自分の感覚的には過去2枚が2部作で、今作は“スピンオフ”的なものというか。本軸は変わらないんだけれども、彩りがさらに増した感じはします。

◆そこは過去2作で見えたものも反映された結果でしょうか?

生み出したものとその後にやったこと、それに対してみんなが思ってくれたこと…というのは反映されているでしょうね。そういう意味では、やっぱり止まらなくて良かったなとは思います。“音楽を作ることを止めなくて良かった”という実感が一番大きいかもしれない。

◆前作の段階では3日に1曲くらいのペースで曲を作られていたそうですが、そのペースも変わっていない?

変わっていないですね。今年の3月に緊急事態宣言がまた出たから、“これは曲を作らなきゃいけないんじゃないの?“みたいになって(笑)。

◆ある意味、緊急事態宣言に後押しされたと(笑)。曲を作るにあたって、何か指針はありましたか?

そこはさっき言ったことにもつながりますけど、“未来に向けて”というか。明るい未来に向けて、ポジティヴな気持ちを添えるアルバムにしたいなとは思っていましたね。

◆特にリード曲のM-2「Wherever,Whenever」は、今作の明るさや開放感を象徴しているように感じられました。

でも最初からそうしようと思っていたわけじゃなくて、途中で“これはリード曲だな”という感じになったんですよ。作っていく中で輝きを一番増していったので、リード曲になったんだと思います。

◆オープニングナンバーも「See the Light」であるように、“輝き”や“光”が今作のキーワードなのかなと。

“希望”とか、そういうものですよね。去年とは明らかに違っていて、“嘆いていないし、迷っていない”という感じです。

◆そういった変化を生んだのは、時間の経過だったりするのでしょうか?

やっぱり、時間ですよね。みんなと一緒だと思います。いろいろ上手くいかないことがあって、“しょうがないな”というところに無理やり落とし込んで…それから“あきらめ”になって。“その次はどうしたい?”となった時に、明日の献立を考えるように、何か月か先の計画を考えることで、“それがあるから頑張れる”っていう。そういう輝きがあるものを作れたらいいなとは思いました。

「やっぱり、人と喜びを共有するほうが面白いから」

◆一度はあきらめの境地に至っても、その先に明るい未来を想像することで先に進んでいく。

その先に“ご褒美”があるから、頑張れると思うんですよ。(ミュージシャンという)職業柄、そういうことを強く望みたいし、“みんなに元気になってほしい”と思う部分もあって。(楽曲は)自分にとって大きな“鏡”だったりもするから、今年は特にそういう部分を強く吹き込むことが大事な時期だったんですよね。

◆そういう思考の結果として、今作の楽曲には開放感や明るさが漂っているんでしょうね。

今回は、そういうものしか選ばなかったというか。無意識かもしれないけど、自分でそういうものをチョイスしていたということでしょうね。

◆今作を通して聴かせていただいた時に、M-4「Live it Up」の曲名にもなっている“深く生きる(生きよう)”という言葉がキーになっているように感じたのですが。

そうですね。やっぱり生きていく中で“何か”はあるけど、それすらも愛おしいというか。例えば“雨だから嫌だ”とかではなく、逆転の発想をしてポジティヴに捉えていく。ハプニングやトラブルにも何らかの意味があると考える…それが“深く生きる”ということかなと思います。

◆まさに今のような環境においては、“深く生きる”ことが大事になるのかなと。

うん、強くなれる。

◆逆境をバネにして、前に進んでいくというか。逆にこういった環境でなければ、ここまでのペースで作品を生み出さなかったかもしれないわけですよね。

本当にそうだと思います。みんなも同じだと思うんですけど、これだけ活動を止められたり、自由を制限されたことは今までなかったと思うんですよ。そういう意味では、結果的にミュージシャンとして“動かされた”部分はありますね。

◆行動が制限された分、制作面では自由度が広がった部分もあるのかなと。例えばバンドサウンドだけに囚われず、1人で制作するということもそうだと思うんです。

「あるものだけで作る料理も、意外と美味しいよ」というか。そこも楽しめた部分はあります。

◆材料が限られるからこそ、工夫しがいもありますよね。

そんな中でも大事なものだけが残っていって、その大切さがわかったりもして。時間の使い方1つにしても、だいぶ変わりましたね。価値観が変わったというか。何気なく過ごしながらも得られた、そういう部分はこれからも生かしていきたいと思っています。

◆1人で作品を作ってきた中で、得られたものも大きいのかなと思います。

そうですね。でも今作も本当に1人で作ったわけではなくて、関わってくれたスタッフがたくさんいるわけで。どういった形にせよ、人と一緒にやるほうが面白いんですよね。やっぱり、人と喜びを共有するほうが面白いから。

◆楽曲に関しては1人で作られている分、最終形までイメージしながら作られているんでしょうか?

そうですね。曲作りの時点でほぼ完成しているので、その時の感覚は大事にしています。

◆それをまた実際にライブでやるとなった時に、そのためのアレンジを考えていくわけですよね。

それはまあ、追々(笑)。まだ考えてはいないです。そこはライブをやりたいなと思った時に落とし込み方を考える感じで、その先のストーリーに関しては今回はあまり考えていなかったかもしれない。それよりもその時に思った気持ちを(曲に)落とし込むことを優先して、制作した感覚はありますね。

「音楽に真っすぐでいたいなと思いますね」

◆前作『Between The World And Me』に関してもその時々のマインドや気分が1曲1曲に表れていることで、自然とバラエティが生まれたとおっしゃられていました。

特に前作に関しては、そうでしたね。(季節の変化に対応して)徐々に温度が下がっていったような感じです。今回はメロディやバックトラックを作ってからわりとすぐ(レコーディング)だったので、どれもトーンは一緒だと思います。

◆短期集中で作られた分、トーンは一定している。

バックトラックとメロディは1か月で作って、レコーディングはボーカルミックスも含めて1か月半くらいでした。

◆かなりのスピード感だったんですね。

そうしないと自分の中での新鮮さがなくなっちゃうんですよね。余計なものが付いてきちゃうので、そういうものはあまり付けたくないんですよ。今は、素材の良さを活かすのが一番良いと思っているから。

◆そういう意識もあって、このスパンで新作が生み出されたと。2020年9月に『Libertine Dreams』をリリースしてから約1年の間で、『Between The World And Me』と今作というフルアルバム3枚を出されているという…。

アホですよね(笑)。これだけ作品をリリースさせてくれるレコード会社も素晴らしいと思います。作品を出さないことには彼らと一緒にプロモーションできないし、会えないわけで…、“会いたい”と思ったんじゃないですか(笑)。

◆(笑)。これまでのお話をお聞きしていると、作品に関しては“みんなと作っている”という意識が強いように感じました。

(作品作りだけではなく)その先のことをイメージしているし、プロモーションも含めて考えています。こうやって音楽で生活ができていることに感謝もしているし、やっぱり1人でやっているわけじゃないから。自分が動けば、みんなの幸せも増すという部分は少なからずあるので、止まってもいられない。時間があるだけ、(音楽を)やりたいですね。

◆そこが“音楽をする/作品を作る”意味につながる部分なのかなと思います。

結果として、みんなと喜びや楽しさを共有したい。アルバムというのは、そのための素材なんですよね。

◆活動を続けられる中で、そういった意識が生まれてきたのでしょうか?

年々、育ってきた気持ちですね。ミュージシャンとして自分を生かしてくれている、レコード会社やスタッフ、ファンの方々がいて。自分が新しいものを作ることで徐々に増えていく“ファミリー”と一緒にいる時間が長くなるに従って、そういう気持ちになっていきました。ある意味、自分の中で使命感のようなものもあるし、それが恩返しになっている部分もあるのかなと思います。

◆その意識があるから、常に新しい作品や未来を見据えて動くことにもつながるのかなと。

そうですね。行けるところまで行きたいですけど、いつまで行けるかはわからないですから。何があるかわからないわけで。だから本当に、音楽に真っすぐでいたいなと思いますね。

「コロナ禍のライブで、だんだん研ぎ澄まされている」

◆今作のタイトル『ANY DAY NOW』も“いつの日にか”という意味で、未来に向かう言葉だなと思っていて。同名の映画(邦題「チョコレートドーナツ」2012年/アメリカ)もありますが、そことつながっていたりもする?

その映画の中で出てくる曲のフレーズとして聞いた時に、すごく良いなと思って。曲を作っている最中にあの映画を観て、(その言葉が)目に止まったんです。

◆ボブ・ディランの「I Shall Be Released」を主人公が歌うシーンですよね。

ボブ・ディランがあの時代に書いた歌詞を勝手に捉えた意味と、あの映画の主人公が歌ったり、進んでいったりする姿を見た時に、自分が今やっていることと意味がつながってきて。結局、“行動する”っていうことなんですよね。行動していかないと、何も変わらない。行動する勇気というのは、やっぱり(胸を)打ちますよね。そして打つことによって、世界さえも変わっていく。だから、“ANY DAY NOW”という言葉がすごく良いなと思いました。

◆歌や音楽が世界を変えるきっかけになる、ということを教えてくれる作品というか。そこも今作につながっているなと思いました。

やっぱり音楽って素晴らしいと思うし、あの映画のボブ・ディラン(の曲)もそうですけど、そういう彩りを(作品に)加えてくれる。それはもちろん曲自体のパワーもあるかもしれないけど、聴いてくれる人や一緒に作ってくれる人が(彩りを)加えてくれるんだなということも改めて感じたというか。だから、みんなで何かを作り上げたり、みんなでどこかへ向かっていくところに音楽があるということが素晴らしいなと思ったんです。

◆時代の変化とともに制作者の意図すらも超えて、広がりを持っていくのが音楽の良さかなと感じていて。ご自身の曲に関しても、同じことが言えるのでは?

そういうところはありますよね。やっぱりソロの曲で(ライブで)毎回やっているような曲も、だんだん変わってくるものだから。

◆それも長く活動されているからこそ、味わえることというか。

“持続している”ということには、やっぱり強い部分もありますから。だからこそ、“進んでいく”っていうことじゃないですかね。

◆“ライブ”というものも、活動の推進力として大きいわけですよね。

そうですね。コロナ禍のライブで、だんだん研ぎ澄まされている部分があるというか。前は当たり前だったけれども、今ではできなくなったこともあって。でもそこから残った中にすごく大事なものがあって、それが輝きを増してきたということはすごく感じています。

◆ライブでの表現や楽しみ方に制限がある中でも、研ぎ澄ますことができている。

絶対に方法はあるはずだから。今って、みんなでいろいろと考えて作り上げていくということを全員参加型でやっているわけじゃないですか。大変だけど、その中で見えた光は尊いものだと思いますね。

◆そして今作リリース後もまた進んでいかれるわけですが、このペースで行くとまた半年後くらいに新作が出るのでは?

どうしましょう…また会えますね(笑)。

◆会えますね(笑)。創作意欲はずっとある?

もちろん、ありますよ。だからまた何か展開があったら作るかもしれないし、LUNA SEAの曲も作っているから。今も止まってはいないです。

◆次はまたバンドサウンドに戻る可能性もあるのでしょうか?

それもあるかもしれないですね。そこは気の向くまま、あるがまま…Let It Beで(笑)。

PROFILE

INORAN
●いのらん…1970年9月29日生まれ。神奈川県出身。LUNA SEAのギタリスト。1997年よりソロ活動を開始。これまでにソロで14枚のフルアルバムをリリースするほか、LUNA SEAでも精力的な活動を繰り広げている。

この記事の写真(撮り下ろし全7点)

リリース情報

15th Album『ANY DAY NOW』
2021年10月20日(水)発売

【完全生産限定盤-LP SIZE BOX-(CD+Blu-ray+写真集)】13,200円(税込)
【通常盤】3,300円(税込)

ライブ情報

「INORAN 2021-2022 PREMIUM ACOUSTIC LIVE」
2021年11月23日(火・祝) Billboard Live TOKYO
2021年12月25日(土) Billboard Live OSAKA
2022年1月16日(日) Billboard Live YOKOHAMA

WEB

公式サイト:http://inoran.org/
公式Twitter:https://twitter.com/INORAN_OFFICIAL/
公式Facebook:https://www.facebook.com/INORANOfficial

●photo/YOSHIHITO_SASAKI text/大浦実千

INORANさんのサイン入り生写真を1名にプレゼント!

<応募方法>
TV LIFE公式Twitterをフォロー&プレゼント告知ツイートをRTしていただいた方の中から抽選で1名にINORANさんのサイン入り生写真をプレゼント!
当選者には、TV LIFE公式TwitterアカウントよりDMでお知らせいたします。

TV LIFE公式Twitter(@tv_life):https://twitter.com/tv_life

<応募締切>
2021年10月29日(金)23:59