武田真治&モーリー・ロバートソン インタビュー「モーリーさんから圧を感じました(笑)」『NHKスペシャル「新・幕末史」』

特集・インタビュー
2022年10月14日
『NHKスペシャル「新・幕末史」』武田真治、モーリー・ロバートソン ©NHK

世界史と日本史をつなげ、新たな歴史を紡ぎ出す「グローバルヒストリー」企画。2020年に好評を博した「戦国」に続き、第2弾の「新・幕末史」を1016日、23日(日)の『NHKスペシャル』(NHK総合 午後9時~949分)で2週に渡り放送される。

1016日(日)は、黒船来航後、日本が諸外国との全面戦争の危機に陥った背景を描く「幕府vs列強 全面戦争の危機」。23日(日)は、戊辰戦争の背後で進められた日本の植民地計画に迫る「戊辰戦争 狙われた日本」という内容。ナビゲーターは西島秀俊が務める。

2週ともドキュメンタリーとドラマパートで構成され、ドラマパートは世界を早くから見据え“最後の幕臣”と呼ばれた小栗忠順と、来日イギリス公使として辣腕を振るったハリー・パークスを軸に描かれる。ドラマパートで小栗とパークスを演じた武田真治とモーリー・ロバートソンが、撮影に際し心掛けたことや今回の番組の意義を語った。

◆お2人が演じた小栗忠順とパークス、どんな人物だと捉えていますか?

武田:幕末と言えばどうしても坂本龍馬や西郷隆盛、新選組などが人気で、小栗忠順はあまり注目されてこなかったと思うんです。恥ずかしながら僕も大河ドラマ『青天を衝け』で演じさせていただくまで、小栗のことを知らなくて。ざっくり、幕府側の人間だから海外のものを拒絶している人だろうと思い込んでいました。でも調べてみると、小栗は早くから世界に目を向け、外国からいいものを取り込もうとしていたんですね。知らなかったことを恥ずかしく思いましたし、イギリスやロシアに対して一歩も引かず、日本のために命を賭して交渉の場に立った小栗に思いを馳せながら、今回も演じさせていただきました。

モーリー:私は『青天を衝け』でペリーを演じさせていただいたんですが、パークスが日本に与えた影響を考えると、ペリーに匹敵するものがあると感じました。新興国ゆえに軍艦から大砲で威嚇するという単純な戦略が採れたアメリカと違い、パークスのいたイギリスは既に世界の覇権を握る立場だったことから、他の列強が追随して来る中、いかにして日本を自国に有利な状況に置くかということが重要で。従って絡め手を使いながら、イギリスに与することが日本にとっても有益だというディールを持ち込んでくる。その急先鋒を担ったという意味で、パークスもまた非常に重要な人物だと思うのです。

◆小栗を演じる上で意識したことはありますか?

武田:物事は簡単に白黒で割り切れるものではないという、小栗の考え方ですね。どうしても争いというと白黒が付いた、勝つか負けるかというものが多いのですが、列強の方が日本より強いことを知っている小栗の戦いは要求を受け入れるところは受け入れ、完全なる敗北を避けることなんです。だから売られたけんかを買って打ち負かすのではなく、たぶん自分の方が強いけど、100%勝利するとは言い切れないぞと、けんかを売られないことが大事で。僕的に言えば、人になめられないため筋トレをして、胸板を厚くするみたいな感じでしょうか。これは後付けなんですけど、もともと僕は昔から勝敗や善悪のハッキリしたヒーローに引かれて来なかったんです。争いはお互いの正義がぶつかり合うもので、どちらかが悪というものではないと考えていて。だから『青天を衝け』で小栗という人物を知ったとき、こういう人物に会いたかったというときめきもありました。

◆モーリーさんは普段のパーソナリティやコメンテーターとは違う取り組み方になったと思いますが。

モーリー:そうですね。だから役者の仕事をさせていただくときは、普段とは顔の筋肉の使い方を変えるようにしているんです。あと今回の役柄で難しかったのが、小栗は日本人ですから、日本人ならではの間合いがあるんです。日本に住んで長い私は自然とそれに入ろうとしてしまうのですが、本物のパークスはそういう日本の文化や礼儀に無理解で、のしかかろうとする無骨な人間だった。なので、あえて相手との間合いを崩して演じなければいけないというのが、大きな難関でした。もう少し深い答えになると、私たちは今回番組で取り上げる後の歴史も知ってしまっているんですね。イギリスと日本が同盟を組み、20世紀に入ってすぐ、ロシアが日本に負けるという。ただ、まだこの段階ではどうなるかまったく分からないわけで、この瞬間に知らないはずのことは忘却しなければいけないというのも、大変なところでした。

『NHKスペシャル「新・幕末史」』©NHK

◆現場で面と向かって共演していかがでしたか?

武田:やっぱりモーリーさんは、圧倒的に知識が豊富で、体も大きいですから。面と向かうと、ものすごい圧を感じるんです

モーリー:ハッハッハ。このドラマの中で描かれるパークスは、どちらかと言えば悪役ですから。いかに狡猾に圧をかけるか、やりとりの中でひたすら計算し続ける辣腕の人物を心掛けました。

武田:当時の日本人はみんな小さいし、小栗もさほど体が大きな方ではなかったと聞いているので、いかに勇敢に交渉したかを思い知りました。ただ、役として考えると、モーリーさんが圧を与えてくれたことで僕も必死になり、小栗のひたむきさが出せたと思うので。そういう意味ではこのキャスティングに感謝しています。

モーリー:小栗のいた頃の日本にはまだ「国家」という概念はなかったんですけど、自分の故郷や社会を守りたいという強い意志を持っている人だと思うんですね。そのために全身全霊を捧げているという姿勢が、武田さんの眼力からバシバシ伝わって来て。パークスもこんな感じの眼力を受けていたんだろうなと思いました。

◆現場の様子はいかがでしたか?

モーリー:セットにこだわりを感じましたね。リアリズムを追求されて、本当にこの時代にあっただろう調度品が並べられていて。あと、ライトが暗かったのが印象的でした。

武田:たぶん、モーリーさんのシーンだけだと思います。僕だけのときはもっと明るかったので。

モーリー:だけどあのとき、本当に暗かったですよ。

武田:そうですね、対峙しているシーンは。たぶん、モーリーさんのシーンはあえて暗めのライトにすることで、裏で暗躍する人物みたいなのを表現されたんだと思います。

『NHKスペシャル「新・幕末史」』©NHK

◆番組内ではアメリカ南北戦争や日本の戊辰戦争でも使われたアメリカ製のガトリング砲や、イギリス海軍の主力兵器だったアームストロング砲といった兵器も再現されます。

モーリー:ライフリングの技術ができたことが大きいんですよね。精度や速度、飛距離も格段に伸びて、より効率的に損傷を与えられるようになった。武器や兵器が変わると戦法も変わるし、戦場のパワーバランスも変わるんです。実際、これらの兵器が当時の戦局を左右したし、それこそ今でも、ウクライナがアメリカ軍から「ハイマース」というロケット発射システムを提供されたことにより、ロシアとの形勢が逆転するといったことが起きていて。今と昔が重なるわけではないんですけども、世界の歴史、紛争の中で同じモチーフが残響のように繰り返されているんだなと感じました。

武田:当時の日本人からしたら、恐怖でしかなかったでしょうね。それに、見方を変えれば戦争がひとつの産業になってしまったという一面もあるわけで。どこか遠くで争いがあることにより、離れた場所で安全にお金儲けできるというシステムが出来上がってしまったことが、僕としては本当に悲しいです。

◆世界史と日本史をつなぎ合わせて歴史を捉えるという「グローバルヒストリー」の意義をどんなところに感じていますか?

武田:外国の視点から日本を見ると、新たな発見がありますね。国同士の戦いとなると簡単に白黒つけられるものではなく、外交により折り合わせながら、うまく着地点を探ることが大事というか。物事が複雑化した今こそ小栗のような考え方が大事だと思いますし、もしかしたら日本人全体が他の国との在り方みたいなものを、しっかり考えた方がいいのかもしれませんね。

モーリー:日本と世界の歴史は地続きであり、お互いに作用し、ある種の偶然性も関わることで出来事が起きているわけで。そう考えると勝った、負けたと歴史の動きを単純化するのではなく、複雑なまま受け入れることが大事な気がします。またいみじくも当時と同じように、ロシアがクリミア半島を巡る戦いを行っていて。幕末の頃のクリミアを巡る争いに敗北したことがロシアを樺太や対馬に向かわせたように、またロシアが日本の領土を視界に入れるかもしれない。そういう想像力を働かせることや、歴史や世界に対する当事者意識を上げるという意味でも、この番組はすごくいいきっかけになると思います。

PROFILE

たけだ・しんじ…19721218日生まれ。北海道出身。AB型。

もーりー・ろばーとそん…1963112日生まれ。アメリカ・ニューヨーク州出身。

番組情報

『NHKスペシャル「新・幕末史」』
NHK総合

「第1集 幕府vs列強 全面戦争の危機」1016日(日)午後9時~949
「第2集 戊辰戦争 狙われた日本」1023日(日)午後9時~949

©NHK

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