飯坂温泉の窮地を支えた「温泉むすめ」ファンの行動力 – 温泉地とキャラクターコンテンツの結びつき【インタビュー】

特集・インタビュー
2023年10月05日
温泉むすめ ©ONSEN MUSUME PROJECT

日本全国の温泉地や観光地をキャラクターやコンテンツの力で活性化することを目的としたプロジェクト「温泉むすめ」。活動のひとつとして、温泉地で積極的にイベントを実施しており、2023916日には福島県・飯坂温泉にあるパルセいいざかにて、ミニライブ&トークイベントが行われた。

飯坂温泉では、「温泉むすめ」のイベントを毎年のように開催。今回のイベントでは地元の観光協会や学生の方々も運営のサポートとして参加していた。

飯坂温泉観光協会の事務局次長の齋藤利香子さんと飯坂温泉の老舗・ほりえや旅館の五代目・和田一成さんは、「温泉むすめ」との取り組みについて「若い方も足を運んでくれるようになった」と反響について言葉にする。今回、イベントの合間におふたりへインタビュー。「温泉むすめ」の魅力とファンの方々の行動力について語ってもらった。

 

◆まずはじめに、なぜ「温泉むすめ」の取り組みをしたいと思ったのでしょうか?

和田:昭和中頃までは飯坂温泉もにぎわっていたそうですが、バブル崩壊とともに団体旅行がなくなり、客足も遠のき廃旅館も目立って、活気と知名度も無くなりました。僕は婿養子として19年前に飯坂へ来たのですが、そのときは既に人も歩いていないようなゴーストタウンに近い状況だったんです。市もいろいろな補助をしてくれて、街並みの整備を進めたり、いろいろなイベントを開催したりしていたのですが、なかなか客足が戻ってくることはなく……。毎年のようにどうしようかと頭を悩ませていました。そんなときに「温泉むすめ」の話をエンバウンド代表の橋本さんから聞いて、一度チャレンジしてみようと思ったんです。正直、わらにもすがる思いでした。

◆なるほど。実際に取り組みをやってみていかがでしたか?

和田:最初に観光協会に真尋ちゃんのパネルを置いたのですが、平日にも関わらず、設置したその日のうちに県内・近県、そして首都圏からも多くの方が来てくださいました。コンテンツのファンの方はもちろん、担当声優の吉岡(茉祐)さんを応援されている方々が写真集やCDなどをプレゼントしてくれたんです。みなさんの行動力にとても驚きました。

齋藤:その後も、しばしばファンの方々が足を運んでくださるようになったんです。

和田:飯坂温泉に古くからある公衆浴場を巡る「熱湯スタンプラリー」を開催したときは、何百人もの方が足を運んでくださいました。飯坂温泉は公衆浴場の湯も熱いのが特徴なのですが、みなさんちゃんと温泉にも入ってくださるんです。

齋藤:わざと熱い湯にチャレンジする方もいらっしゃいました(笑)。

和田:また、飯坂温泉は名前の由来通りに坂が多く、坂を巡るための案内を掲載した「てくてくブック」というものを販売していたんです。ただ、そのブックが山のように在庫が残っていたんですよ。そこで「温泉むすめ」とコラボして真尋ちゃんのクリアファイルを特典として付けたところ、1,000冊くらい一気に売れました。

熱湯スタンプラリー ©ONSEN MUSUME PROJECT

◆そういったコラボやイベントなどを行った結果、どんどん温泉地の活気も出てきた。

齋藤:そうですね。

和田:もともと若い子がぜんぜん来なかった温泉地だったんです。東京にPR活動へ行ったときも、そもそも飯坂温泉がどこにあるのか知らない方ばかりでした。魅力を伝える以前の問題だったんです。ただ、「温泉むすめ」のファンの方々は、若い方でも自分で飯坂がどこにあるのか調べて、自分で足を運んでくださるんですよ。

◆ファンの方の熱意を感じます。

和田:本当にありがたいですよ。私たちはもちろん、新聞やテレビ、SNSなどでも発信しているので、地元の子どもからお年寄りまで、飯坂真尋ちゃんを知らない人はいないかと思います(笑)。また、温泉地のビジネス的な目線で言えば、このコンテンツのよさはグッズを通販していないところ。そして同じ商品を売ってはいけないルールがあり、各店舗で違うグッズを作っているところ。デザインも各施設で違うデザインを依頼し、その商品はそこでしか買えないので、街歩きにも繋がるんです。これは本当に温泉地にも寄り添ってくれるコンテンツだと思いました。だから、他の温泉地にも「これはやったほうがいいよ」と声がけして、東北の6割の温泉地はプロジェクトに興味を持って動いてくれました。結果的に東北のPRにも繋がったと思っています。

温泉むすめ ©ONSEN MUSUME PROJECT

サブカルの町ではなくハイブリット型の温泉地を目指していきたい

◆観光地・温泉地は、新型コロナウィルス感染拡大の影響を大きく受けたと思います。

齋藤:大きかったですね。

和田:緊急事態宣言が出たときは、誰も温泉地には来てくれませんでした。ただ、少しずつ落ち着いてきたとき、いち早く動いてくれたのは「温泉むすめ」のファンの方々。ほりえや旅館には、みなさんからいただいたグッズを飾っている「真尋ちゃん部屋」があるのですが、コロナ禍でも多くのファンがその部屋を利用してくださったんです。すごく支えてもらいました。

◆先ほどお話されていた「行動力」のすごさを感じます。

和田:そうですね。旅館の駐車場に雪が積もってしまい、どうしていいか分からないとSNSで呟いたら、雪かきの手伝いにファンの方が来てくださるなんてこともありました。

齋藤:東京にキャンペーンへ行くとなったとき「手伝いに行きます」と声をかけてくれる方もいらっしゃって。ファンのみなさんのあたたかさを感じています。

和田:今は客足も回復してきて、8月は休みがないくらい多くのお客さんが来てくださいました。2019年と同等レベルくらいまでにはなっているんじゃないかな。

◆そんな中で、今回、ミニライブ&トークイベントがパルセいいざかにて行われました。ご覧になっていかがでしたか?

和田:去年に引き続きミニライブも行ったのですが、今回から声出しもできたということで、ファンの方々の活気がより伝わってきました。みなさんの姿を見ているとこっちもパワーをもらえますし、SNSでもたくさん発信してくださってありがたい限りですね。

齋藤:私は運営のお手伝いをしていてじっくりは見られていないのですが、ファンの方の熱気がいつも以上だということは十二分に伝わってきました。ライブをすごく楽しみにしている方が多かったんでしょうね。グッズの面でいえば、マフラータオルの売れ行きが例年以上でした。

和田:(「温泉むすめ」である)「青春サイダー」でタオルを使うから、二部に参加される方でまだ持っていない方が買ってくださったんです。もともとコロナ禍前は、ライブも「温泉むすめ」の取り組みのひとつだったと思うんです。なかなかライブができる会場を確保できる温泉地は少ないなかでも、飯坂はこの広い会場を使えます。その利点をこれからも活かしつつ、もっとたくさんのファンの方に、飯坂温泉での「温泉むすめ」のイベントを見てほしいですね。絶対に後悔しない、むしろもっと「温泉むすめ」が好きになると思います。

◆会場が広くて驚きました。

齋藤:リハーサルのとき、何度か来たことがある吉岡さん以外の出演者の方々も「すごく広い!」と感激されていました。他の温泉地だと、旅館の大広間などが多く、なかなかこういう場所はないみたいなので、飯坂はすごく恵まれているなと思いました。

◆本日はいろいろなお話ありがとうございました。最後に読者のみなさんに向けて、飯坂温泉の魅力をアピールいただければと思います。

齋藤:飯坂のキャッチフレーズは「いで湯とくだものの里」。温泉はもちろん、果樹園もたくさんあります。さくらんぼ・桃・梨・ブドウなど季節ごとに旬の味を楽しめるので、ぜひ採り立ての果物を味わってください。温泉に負けず飯坂のメンバーも熱いので、観光を楽しんでいただければと思います。

和田3D化された飯坂真尋ちゃんがいろいろなスポットを案内してくれる街歩きARも実施しています。そういった新しい取り組みも活用して、飯坂をより一層楽しんでください。ただ、ここまでいろいろとお話してきましたが、私たちは飯坂をサブカルの町にしたいわけではありません。それだけに特化していくのは、ちょっと違うと思っています。うちは、明治15年に建てた木造3階建ての歴史ある旅館です。そういった古きよき文化や魅力も、飯坂にはあるんです。そのよさも残しつつ、ハイブリット型の温泉地を目指していきたいと思っています。

温泉むすめ ©ONSEN MUSUME PROJECT

●text/M.TOKU