熊切和嘉監督インタビュー「今撮るべき映画なんじゃないかなと思った」映画「武曲 MUKOKU」

特集・インタビュー
2017年12月18日

主演・綾野剛、共演・村上虹郎で芥川賞作家の藤沢周の小説を映画化した「武曲 MUKOKU」のBlu-ray&DVDが発売中。本作で、闘うことでしか生きられない男たちの姿を鮮烈に描き出した熊切和嘉監督にインタビュー。


今撮るべき映画なんじゃないかなと思った

熊切和嘉監督インタビュー

◆「武曲」が映画化に至った経緯をお聞かせください。

2年くらい前に文化庁の研修制度でフランスに留学させてもらったんです。そこから日本に帰ってきたときに、プロデューサーからこの作品を映画化したいということで台本を頂いて。それから原作も拝読しまして、今撮るべき映画なんじゃないかなと思ったんです。

◆これまでも小説の映画化を手掛けられていますが、小説を読むときに映画にしたいなという意識はありますか?

そんなにないですね。もちろん読んでいてそう思うことはたまにあります。「私の男」は自分で読んで、自分から持って行ったんです。

◆そういうときは読んでいる時点で映像が浮かんだりということもあるんですか?

そうですね。浮かぶことはありますね。

◆キャスティングまで考えたりは?

キャスティングまでは考えないですね。浮かぶとあとで思いどおりにいかないこともあるので(笑)。あんまり浮かべないようにして読んでいます。

◆少し話がそれますが、熊切監督のルーツと言いますか、子供時代に見たテレビや映画を教えてください。

テレビはやっぱりビートたけしさんが大好きでしたね。今も世の中で一番好きです(笑)。

◆『ひょうきん族』世代ですもんね。

そこまでテレビっ子というわけではなかったです。映画を好きになったのが早かったので、『月曜ロードショー』とかが楽しみでしたね。

◆何歳くらいのときからですか?

小3くらいですね。僕はジャッキー・チェンが好きで。香港映画が放送されると、それがとにかく楽しみで。

◆子供時代に見た映画で特に思い出に残っているものはありますか?

いっぱいあるんですが、ジャッキー・チェンの映画は全部見てますね。

◆自分で撮りたいという意識はどのくらいから出てきたんですか?

本当に僕、ジャッキーごっこが好きで。映画を見ては友達とごっこをしたり。それから凝りだして、ごっこなんですけどストーリーを凝ったり、押し入れから古着を引っ張り出しては重ね着して衣装にしたり。たぶんそれが映画作りの原点になっている気がします。
そのあとに中学校くらいで漫画を描き出して。そのころは本当に映画が好きで、ビデオカメラがあったら映画を撮れるじゃないかと思ったんです。漫画を描いているのは、映画を撮りたいけどその術が分からなくて、描いていたというか。それで中学3年生くらいのときに親戚からビデオカメラを借りて撮り始めて。遊びですけどね(笑)。高校時代は一番の遊びが映画を撮ることでした。

◆中学生のころからずっと映画を撮り続けているんですね。

わりと僕、それしかやってないです(笑)。その後、フィルムで撮ってみたかったので、大阪芸大に行ったんです。

「武曲 MUKOKU」

◆そして大学の卒業制作『鬼畜大宴会』で「ぴあフィルムフェスティバル」準グランプリを受賞して映画監督になられるわけですね。話を「武曲」に戻しますが、キャスティングについてはいかがですか。

綾野君は2回目ですけど、もう一度やりたいなという思いがありました。すごく気合を入れてやってくれましたね。
虹郎君も以前から知っていたので、こういう役にぴったりなんじゃないかなって。すごく感覚を共有できたので、あまり多くを言わずともやれたかなという気がします。

◆熊切監督から見てお2人はどんな役者さんですか?

綾野君はあれだけいろいろやられている方ですが、とにかく自分を徹底的に追い詰める。ある種の強迫観念みたいなものがあるのかなと思うんです。そういうタイプの役者さんっていると思うんですけど。
これは撮っていて思ったんですけど、綾野君は“俳優・綾野剛”の中に“演出家・綾野剛”がいて、僕が“演出家・綾野剛”に相談すると、「じゃ“俳優・綾野剛”にもっとやらせてみます」みたいな、そういうところがあって。感情はものすごく熱いんだけど、頭は冷静にやってくれる。だから非常にやりやすかったですね。

◆村上さんはいかがでしたか?

虹郎君は感覚的というか、型にはまっていない感じで。それがすごくこの役と合っていましたし、非常にキラキラしていましたね。

「武曲 MUKOKU」

◆柄本明さん、小林薫さんも“陰の主役”と言いたくなる存在感でしたね。

そうなんですよ。小林さんは何度もご一緒していますけど、実はいつも情けない薫さんばっかりで、怖い薫さんを撮っていなかったんです。でも、実際はかなり凄みのある人。そういう面も持っている方なので、今回はその部分を鮮明に出した役で。やっぱり期待以上に迫力がありましたね。

柄本さんは初めてだったんですけど、もちろん昔からいつか仕事をしたい方でした。柄本さんのあの“映画俳優だな”という感じは本当によかったですね。ただ立っているだけであれだけ説得力があるという。

◆思わず息を止めて見てしまうような緊張感あふれるシーンも多いですが、撮影現場はどんな様子でしたか?

綾野君は僕がどのくらいやってほしいのかが分かっていて、「これじゃ足りないでしょ、熊切さん」という感じで、自分で自分を追いつめてくれる。今回、そのつもりで挑んでくれたと思うんです。
小林薫さんもそういうところがあって。
虹郎君もけっこう僕の映画も見てくれていたみたいで。あと、僕がお父さん(村上淳)と何度もやってますから、それでお父さんから聞いていたのかもしれないです(笑)。

◆熊切監督がかっちり決めて、という感じではない?

最近、現場の生身の(俳優の)生理を使うのが好きで。最初にイメージはもちろんあるんですが、そこから多少ズレようが、その現場で一番エネルギーが高まるようにもっていくというか。そのためならプランが変わってもいいかなって思うときが多いですね。

「武曲 MUKOKU」

◆特に印象に残っているシーンはありますか? 個人的にはやはり綾野さんと村上さんの決闘のシーンの迫力に圧倒されました。

やっぱり雨の中での決闘のシーンは大変でした。スケジュールの関係上、どうしてもクランクインから5日目くらいにあのシーンに入らなきゃいけなかったんです。さすがにちょっとしんどいって思ってたんですけど、綾野君がもう準備万端で「僕はいつでもいけますよ、監督」って言ってくれて。虹郎君も半分強がりかも知れないですけど(笑)、「僕もいけます」って言ったので、役者がそう言うならやってみるかという感じで。
あのシーンは3日くらいかけて撮ったんです。撮っていてすごいものが撮れているというのがみんなの中にあったので、そこからはすがすがしく撮れました。

◆あのシーンを序盤で撮ったら、作品へのテンションが変わりますよね。

そうなんですよ。あれを撮って特に虹郎君が変わったんです。あの前に撮ったところと比べると一皮むけた感じがするというか、すごくいい顔をしている。

◆では、熊切監督の今後の作品では過酷なシーンを先に撮るという作戦で?

いやぁ、あんまりやりたくないです(笑)。

「武曲 MUKOKU」

◆殺陣の稽古はかなりされたんですか?

僕が立ち会えないときも、綾野君が若手を呼んで稽古してくれたりしていたんです。
けっこう長い乱闘のシーンも、綾野君が「監督、ここカット割りたくないんですよね?」みたいなことを言ってくれて。僕は「いやぁ…まぁ…理想を言えばワンカット的な?」みたいな返事をして(笑)。

◆言い出しづらいことを綾野さんが先回りして言ってくれる(笑)

そしたら「そうくると思いました」って(笑)。カメラマンもそう思っていたみたいで。だから、綾野君はそのために隙がないように稽古をしてくれたんです。

◆それでは最後に、本作の見どころをお願いします。

「武曲」という漢字の字面を見ると堅苦しい映画に見えるかしれないんですが、そんなことはなくて。けっこう肉体が躍動するエンターテインメントになっています。若くて旬の生きのいい役者がいっぱい出ていますので、ぜひご覧いただければと思います。

 

■PROFILE

熊切和嘉…くまきり・かずよし
1974年、北海道帯広市生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。
卒業制作『鬼畜大宴会』が「第20回ぴあフィルムフェスティバル」で準グランプリ、伊タオルミナ映画祭ではグランプリを受賞。そのまま劇場公開され、大ヒットを記録。以来、『アンテナ』、『海炭市叙景』、『私の男』など、次々と話題作を発表し続ける。

 

■作品情報

int_kumakirikazuyoshi_09映画「武曲 MUKOKU」
Blu-ray&DVD発売中

<出演>
綾野剛
村上虹郎 前田敦子 片岡礼子 神野三鈴 康すおん
風吹ジュン 小林薫 柄本明

監督:熊切和嘉
原作:藤沢周『武曲』(文春文庫刊)

<ストーリー>
「殺す気で突いてみろ!」矢田部研吾(綾野剛)は、まだ小学生だった自分に、日本刀を突き付けて剣を教えるような警察官の父・将造(小林薫)に育てられた。おかげで剣の道で一目置かれる存在となったが、父とのある一件から、進むべき道を見失い、剣も棄ててしまった。
そんな中、研吾のもう一人の師匠である光邑師範(柄本明)が、研吾を立ち直らせようと、一人の少年を研吾のもとへと送り込む。彼の名は羽田融(村上虹郎)、ラップのリリック作りに夢中で、どこから見ても今どきの高校生だが、台風の洪水で死にかけたというトラウマを抱えていた。そんな彼こそ、本人も知らない恐るべき剣の才能の持ち主だった。
研吾と融、共通点はなかった。互いに死を覗きながら闘うこと以外は──そして、その唯一の断ち斬り難い絆が、二人を台風の夜の決闘へと導いていく──。

第5回NYチェルシー映画祭 グランプリ・監督賞・脚本賞受賞
ユナイテッド国際映画祭 外国語映画賞受賞
第39回モスクワ国際映画祭出品
第25回レインダンス映画祭 コンペティション部門出品

公式サイト:http://mukoku.com/

©2017「武曲 MUKOKU」製作委員会