山口紗弥加インタビュー「こんな面白い世界で、私たちは戦っているんです」『ブラックスキャンダル』

特集・インタビュー
2018年11月01日

芸能界の裏側を描いた衝撃作『ブラックスキャンダル』で復讐に燃えるヒロイン・亜梨沙を演じている山口紗弥加さん。意外なことに、芸歴24年目にしてこれが初主演。作品への思い入れをたっぷりとうかがいました。


こんな面白い世界で、私たちは戦っているんです

山口紗弥加インタビュー◆芸能生活24年目にして初主演です。

女優を始めた時は、もちろんいつかは主演をと目指してきたんですけど、結局たどり着けなくて。忘れたころにこんなすてきなギフトが届いて、ちょっと信じられなかったですね。この歳になってなお期待してくださる方がいらっしゃるのは本当にありがたいですし、必要とされる喜びを感じています。“こんなこともあるんだ”って、“夢はいつかかなうかもしれない”って、同じような境遇にいらっしゃる方の一筋の光になれたら…これ以上うれしいことはないですね。

◆実際、主演として現場に入ってみていかがですか?

今回、私が演じる役柄に関しては台本作りの段階から参加させていただいたので、すごく責任を感じていたんです。これは下手な芝居はできないなって。計算も出し惜しみもせず体当たりでぶつかって、私の全エネルギーを使い果たす覚悟で引っ張っていかなきゃ!と思っていたんですけど……ただの思い上がりでした。私ひとりの力なんてたかが知れていて、結局は皆さんに支えられ、守られて、引っ張っていただいてます。現場が楽しくて帰りたくないんですよ(笑)。睡眠時間なんかいらないって思うぐらい幸せです。

◆芸能界が舞台ということで、ご自身の経験や思いもかなり投影されているのでは?

そうですね。もちろんフィクションなので誇張されてはいるんですけど、そこにいかにリアリティを持ち込めるか、生々しく存在できるかが勝負だと思うんです。なので、私が今まで経験してきたこと、当事者として傍観者として見聞きしてきたことをできる限り共演の皆さんと共有しようと、とにかくいろんな話をしながら撮影しています。芸能界の仕事をディテールまで丁寧に紹介しつつ、エンターテインメントとして都市伝説的な闇の部分も描いていく。本当のような嘘、嘘のような本当…虚実皮膜のヒリヒリ感を届けたいですね。

◆ドロドロとした復讐劇の一方で、亜梨沙には若手女優・夏恋(小川紗良)の担当マネージャーという顔もあります。

私としては、ぜひそこを見ていただきたいんです。夏恋と亜梨沙の間には言葉がなくても通じ合うものがあって、すべては信頼から始まっていくんだということがよく分かるんですよね。マネージャーとして事務所に潜入している以上、亜梨沙も24時間復讐のことばかり考えるのは不可能だし、日々の暮らしの中で関わるたくさんの人たちの気持ちや愛情に触れ、人を育てるということにも大きな意味を見出していく。もちろん、復讐者としてはブレーキをかけず徹底的にやろうと思っていますが、復讐だけではない二面性を楽しんでいただけたら。と同時に、芸能界という魑魅魍魎がうごめくような世界で必死に夢を追いかけ、あがいている人たちの生き様みたいなものも感じていただきたいです。

◆亜梨沙の過去である女優・藤崎沙羅の時代は松本まりかさんが演じています。松本さんとはどのようなコミュニケーションを?

二人一役ということで、クランクイン前からLINEを交換してやりとりさせてもらってます。まりかちゃんが「二人ってブラックスワンですよね!」と言うから、「私も同じこと考えてた!」って。沙羅が白鳥で、亜梨沙がならざるを得なかった黒鳥。まりかちゃんの沙羅が真っ白でいてくれるから、私はとことん黒くなれる。ただ、もともとは白鳥だから亜梨沙には白い部分も残っていて、黒に白が混ざってグレーの状態が続いたりもする。沙羅という白鳥がいるからこそ、亜梨沙は黒からグレーの濃淡を、限りなく白に近いところまで彷徨うのだと思います。説得力あるお芝居で亜梨沙に幅を持たせてくれたまりかちゃんに、すごく感謝しています。

山口紗弥加インタビュー◆山口さん自身は20数年間身を置いてきた芸能界について、どのような思いがありますか?

私自身、この作品で年齢関係なく夢がある世界だということを実感しましたし、一夜でスターが生まれ、一言で追放されることもある、興味深い世界だなと思います。さまざまな個性であふれていて、人と違うことを面白がって受け入れてくれる。一方で飽きるのも早いから、新しい興味対象が現れた途端に捨てられる。夢があって、厳しい現実があって……やめたいやめたいと思いつつ、今までやめることができなかったのは、“もしかしたら”という未知への好奇心と期待感からだったのかも。芸能界にはきっとギャンブルのような魅力があって、そこに集まる人間の欲望がむき出しにされるのかもしれません。だからこそのブラックな部分、そこを逆手に取って、“嘘も本当も関係ない泡のように儚い世界で私たちは闘っているんだよ。滑稽でしょ?面白くない?”っていう攻めの気持ちで今回は演じていきたいなと思っています。

◆そういう厳しい世界で生き残ってこられた原動力は何ですか?

一番は、お芝居が好き。私は本当に何もできなかったので、とにかく芝居がうまくなりたい一心でやってきたように思います。それがいつの間にか、味わいのある役者になりたいというふうに変わっていって。うまさより、かけがえのない女優になれたらと思うようになりました。私にしかできない私なりの表現というものを探し続け、いまだ手がかりすら見つけられずにいるという…きっと死ぬまで見つけられないんでしょうけど。そこがまた面白いんですよね。

◆最後に、この作品を通して伝えたいことがあればお願いします。

言葉にはできないような思いもすべて作品に詰め込んでいるつもりです。諦めない、自分に限界を作らないというのもその一つですね。人間のブラックな面を描いた作品ではありますけど、心のどこかに夢を忘れないでほしいという祈りを託してもいるんです。

 

■PROFILE

●やまぐち・さやか…1980年2月14日生まれ。福岡県出身。O型。94年、『若者のすべて』でデビュー以降数多くの連ドラに出演。ドラマには欠かせない存在に。現在、『主婦カツ!』(BSプレミアム)にも出演中。映画「人魚の眠る家」が11月16日(金)公開。

 

■ドラマ情報

『ブラックスキャンダル』
日本テレビ系
毎週(木)後11・59~深0・54
 
●photo/関根和弘 text/蒔田陽平