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【インタビュー】映画「くちびるに歌を」三木孝浩監督インタビュー

【インタビュー】映画「くちびるに歌を」三木孝浩監督インタビュー

「陽だまりの彼女」や「ホットロード」など、ラブストーリーに定評がある三木孝浩監督が手掛けた映画「くちびるに歌を」が間もなく公開される。歌手アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」をベースに書かれた中田永一の同名小説を映画化。中学生が抱える悩みや思いを合唱を通じて描いた本作は、三木監督の新たな挑戦となった。

僕が感じた感動を映画で多くの人に伝えたいと思った

――映画化のきっかけを教えてください。

原作を読んだときに、描かれている15歳の子供たちの思い悩む姿が、自分の中学時代と重なることが多かったんです。自分と向き合う時間というか、自分が生きている意味っていう答えのない問いを自問自答していた時期があって。今思えば、照れるんですけど(笑)。その頃は、真っすぐ悩みを抱えていたんだなと、原作を読んで自分の忘れていた部分を思い出させてもらい、ぜひ映画にしたいなと思いました。

――これまで手掛けられてきたラブストーリーとは、少し違ったテーマですが、いかがでしたか?

高校生くらいになると、好きな人だったり、友達だったりと、向き合う相手が他者なんですよね。それが中学生って「自分って何なんだろう?」と向き合う対象が自分自身なんです。1つ大人になる途中というか。人生の中で一番自分と真っすぐ向き合う時期なんじゃないでしょうか。ラブストーリーは、他者とどう向き合うかっていう部分を描くんですけど、今回は、自分自身とどう向き合うのかが大きなテーマになるので、今までとは違う発見もありました。

――原作は、アンジェラ・アキさんの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」という曲がベースになっているんですよね。

はい、大人の自分と15歳の自分それぞれの悩みが歌われていますね。曲のように、この映画はいろんな目線で楽しめる作品だと思います。家庭の事情で深く傷ついた主人公のナズナ(恒松祐里)と悲しい過去を持つ柏木先生(新垣結衣)が、歌詞に出てくる15歳の自分と大人の自分の姿に見えたらいいなと。この物語のすてきな部分は、登場人物それぞれが抱えている問題に誰かが答えを与えようとしているわけではないってところなんですよね。やっぱり、その答えって自分自身で見つけなきゃいけないもので、誰かから与えられるものではなくて。でも、寄り添うだけで、勇気を与えられるというか、悩みに立ち向かう力を与えることができるのかなと。

――そのために、“合唱”が作中の大事な要素なんですね。

そうですね。合唱ってひとりじゃないっていうのが体感できるんですよ。自分が出した声は、か細いけどみんなで出せばすごく大きな塊になる。実際に中学生の合唱コンクールに行ったんですけど、涙が出るくらい感動しました。これまで合唱というものに触れてこなかったんですけど、僕が感じた感動を映画で多くの人に伝えたいと思いました。

――合唱といえば、合唱部の練習シーンも多く描かれていましたね。合唱部の練習って意外と過酷なんだなと感じました。

以前、ミュージックビデオを撮っていたときに、合唱部の取材に行ったことがあったんです。そこで、練習風景を見ていたので作中にも取り入れさせてもらいました。合唱部って歌を練習するだけかと思っていたら、筋トレとか、ランニングとか結構ハードなメニューがあるんですよね。先生によって練習方法がかなり違ったりして。映画の中でも、おもしろい練習方法をやっているので見てもらいたいです。

合唱は出演者が実際に歌っているんです

――劇中の合唱もすばらしかったです。

あれは、出演者が実際に歌っているんです。中には、声楽をやっていた子もいたんですけど、合唱が初めてという子が多くて。映画の撮影の中で一緒に練習して、どんどんうまくなっていくというのが、物語の中の成長とシンクロすれば、より作品のリアリティになるのかな、と。むしろ、バラバラな子たちが合唱を通して、ひとつのハーモニーを奏でるのがこの物語で大切な事だと思い、出演者のみんなに歌ってもらいました。

――相当練習されたのでは?

子供たちには、かなりレッスンを重ねてもらいました。さらに、地元に住んでいるというリアリティを出すために、撮影の1週間くらい前から舞台である五島列島に行ってもらいました。五島の海で日焼けをして、島っこにさらに近づいてもらおうと(笑)。さらに、五島の方言は独特なので、宿のご主人との会話で練習してもらったり、地元の子たちとコミュニケーションを取って覚えてもらったんですが、中学生の吸収力はすごいですね~(笑)。あっという間に、島っこでした!

――監督の五島列島へのこだわりは強いですね。

もちろん、原作の舞台が五島列島っていうのもありましたけど、僕が映画を撮るときは舞台そのものが、キャラクターになるといいなと思っていて。五島は、小さな島々に囲まれているので、海の波がほとんどなくて穏やかなんですよね。本当に静かな凪のような海で、それが母性というか、子供たちを包んでいるような感覚があって。物語には、いろいろ母親像が出てきますけど、それをすごく象徴している気がしましたね。

――教会も象徴的に登場していました。

五島列島は、隠れキリシタンがいた島なので、教会が有名です。実際に、行ってみても教会が観光地化されているわけではなく、居心地がいいというか、誰でもいつでも入っていいようになっていて、スッと瞑想できるような場所になっていました。ここが島の人々の憩いの場所なんだと思うと、この物語で子供たちが何かあると教会に行くっていうのがすごく自然に感じたんですよね。

――原作にはない柏木先生の過去が、映画では深く描かれていますね。

そうですね。柏木先生のキャラクターっていうのは、いろんな大人の代表かなと思っています。深く傷ついたことがあった先生ではありますけど、多かれ少なかれ30歳くらいになると、誰にでも向き合いたくないことって出てくると思うんですよ。でも、大人になればなるほど、悩みがあっても見ないふりをしたり、問題を棚上げして日々やり過ごし方を覚えていく。そんなときに、傷ついても自分の悩みと向き合っている子供たちの姿にハッとする、柏木先生を描きたかったんです。特に大人の観客の方には、柏木先生をフィルターとして自分を見つめなおすきっかけになればなと思います。

あれは、実体験です!(笑)

――監督は、ミュージックビデオなども手掛けていらっしゃいますが、やはり映画でも画作りには強い思いがありますか?

場所の説明だけではなくて、キャラクターの心情が画面に投影されればいいなって思いながら撮っています。多感な時期って、雲の動きだったり、木々がそよぐ感じだったり、ふとした瞬間に浸ってた自分がいたりして。そういうのを思い出しながら、少年、少女たちの気持ちが言葉や身振りだけでなく、風景や物に現れればいいなと思っています。

――ナズナと幼なじみのケイスケが、自転車を押しながら帰るシーンはキュンキュンしました。

あれは、実体験です!(笑) 帰り道にたまたま一緒になったけど、何もしゃべれない、みたいな。中学生ってそういう時間の積み重ねだと思うんですよ。自分の気持ちも掴み取れていないというか、自分が相手を好きな気持ちも自覚できていないのが、あの頃かな、と。まぁ、今の15歳って、もっと大人なんでしょうけど(笑)。今の30、40代の15歳の頃はあんなだぞ!(笑) 物語が進むシーンももちろん大切なんですけど、なんでもない時間っていうのが、見ている人の個人的な記憶に触れるといいですね。

――そんな懐かしさを思い出させてくれた子供たちを、監督はどんな思いで見ていましたか?

撮影中も台風がきたりとスケジュールが結構タイトだったんですけど、子供たちってどんな状況でも楽しんでいるんですよね。大変なときでも、楽しみを探している姿には、元気をもらいました。あとは、風景だったり、島の人との交流だったりと、彼らにとって初めての体験が多かったと思うんですけど、本当に1つひとつに感動してくれるんですよ。初めてってこういう顔するよなってことを思い出しました。印象的だったのは、2つの島で撮影したんですけど、中盤に1つめの島を出て、2つめの島に移動するときがあったんです。そのときに、島の人が見送りにきてくれて、子供たちはクランクアップ並みの大号泣。「まだ中盤だよ」って言ったんですけど(笑)、心の動きっていうのがすごくフレッシュですてきだなと思いましたね。そんな瞬間がたくさんありました。

――三木監督がこれから挑戦したい作品はありますか?

これまで、ラブストーリーに多く携わらせていただきましたが、別にジャンルにこだわっているわけではなくて。オファーをいただいて、自分が求められているものが出せるならなんでもやります、という思いです。僕としては求められることがうれしいので、「これじゃなきゃ」っていうのはないですね。でも、今回もそうですけど、作っていて楽しいのは、人が成長する様というのは、自分もやりながら勉強になるし、心に残っていくものだったりするのでいいですね。“あるべき自分”を目指して、もがいている姿は、何回撮っても良いなと思います。

 

PROFILE

●みき・たかひろ…1974年8月29日生まれ。徳島県出身。B型。いきものがかり、YUI、ORANGE RANGEら、数多くのMVやライブ映像などを手掛ける。2010年に「ソラニン」で長編映画監督デビュー。以降、「僕等がいた(前・後篇)」(12)、「陽だまりの彼女」(13)、「ホットロード」(14)がいずれも大ヒット。現在、「アオハライド」が絶賛上映中。

 

作品情報

映画「くちびるに歌を」
2月28日(土)よりロードショー
原作:中田永一
監督:三木孝浩
出演:新垣結衣、木村文乃、桐谷健太、恒元祐里、下田翔大、葵わかな、柴田杏花、山口まゆ、佐野勇斗、室井響、渡辺大知、眞島秀和、石田ひかり、木村多江、小木茂光、角替和枝、井川比佐志ほか
主題歌:「手紙~ 拝啓 十五の君へ~」アンジェラ・アキ
公式サイト(http://kuchibiru.jp/

■ストーリー
長崎県の離島・中五島中学校に、産休に入る音楽教師の代理で新たな先生がやってくる。ピアニストだという美人な柏木(新垣結衣)は、合唱部の顧問になる。期待する生徒たちをよそに、柏木は冷たい態度で頑なにピアノを弾こうとしない。そんな中コンクール課題曲の練習の為、柏木は子供たちに“15年後の自分”へ手紙を書く宿題を出す。そこには、15歳の彼らが抱える、誰にも言えない悩みと秘密が綴られていた。その手紙は悲しい過去からピアノを弾けなくなっていた柏木の心を動かして……。

(C)2015 『くちびるに歌を』製作委員会(C)2011 中田永一/小学館
 

●取材/飯倉聖蘭

 

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