【インタビュー】「自分に投影して見られるお芝居です」平埜生成インタビュー 舞台「オーファンズ」に出演

特集・インタビュー
2016年02月05日

2016年2月に上演される舞台「オーファンズ」に出演する平埜生成(ひらの・きなり)さんにインタビュー。2月10日の開演に向けて、稽古真っただ中の平埜さんが、本作への思いやご自身について語ってくれました。

要求されるレベルがすごく高いんです

――最初に台本を読んだときの感想は?

3人芝居で、話もいわゆるハッピーエンドではないこういう舞台をやったことがなかったので、余白があるのがすごく面白かったというか、これを僕がやれるんだっていう喜びがまずありました。

――柳下大さん演じる兄のトリートと2人で暮らすフィリップという役についてはいかがですか?

どういうふうに演じようかというのを、今も悩んでいるところです。僕が所属している「劇団プレステージ」の舞台で演じるポジションが似ているんです。劇団の中でも弟ポジションが多いので。ぜんぜんキャラクターは違うんですけど、どういうふうに差をつけて演じればいいのかというのは考えました。何か新しいものを見つけていかないとなって思っています

――3人の登場人物の中で一番変化していくキャラクターですね。

一幕と二幕で変化している役なので、どれだけ落差をつくれるのか、それをちょっと今、模索中です。

――ご自身とフィリップで似ている部分はありますか?

今、僕がやらせていただく芝居も変わってきていて、ちょっとずつ自分の中でも変化を感じているところなんです。変化を求めているフィリップを演じるということで、ちょっとだけ自分の世界が変わっていく、広がっていくという状況は似ているのかもしれないですね。

――柳下さん、ハロルド役の高橋和也さんとは初共演となります。

すごく男っぽいお2人で、すごくやりやすくしていただいています。自然体でいられる稽古場ですね。

――「オーファンズ」は柳下さんが演出家の宮田慶子さんに直談判して動きだした舞台ですが、宮田さんの演出を受けられた感想は?

そうですね…。最初のほうはすごく楽しかったんですけど、今は……(笑)。要求されるレベルがすごく高いんです。それが抽象的なものではなくて、明確で的確で、とても高いレベルの要求なので、自分がそれをなかなか表現できなくて。望まれるものとの差がまだまだあってくやしいんです。

――数年後に振り返ったときに、あのとき鍛えられてよかったって思えるんでしょうね。

そうなるといいですよね…(笑)。

ハードルがすごく高いことに気づいてしまった

――稽古も中盤とのことですが、最初に稽古に入る前はどんな準備を?

まあ普通のことですけど、孤児って何だろう?ってところから調べたりしました。今回、プレ稽古が1週間弱あって、それがすごく充実していたんです。柳下さん、高橋さんとどんな街に住んでてとか台本に書かれていないことを1週間話し合った。それが今までの自分の準備って何だったんだろうって思わされるくらい充実しました。

――それは宮田さんもご一緒に?

そうです。宮田さんと一緒に、舞台となるフィラデルフィアの街の資料を見てこんなところに住んでいるのかなとか。今もやっているんですけど、間取りはどうだとか、実際兄弟は何歳で、親はいつ亡くなったとか、ハロルドがどんな孤児院で育ったのかとか。そういうことをずっとやって。作品をより深く知っていくための作業を最初にすることができたのがすごくよかったです。

――ほぼ3人出ずっぱりの会話劇ですから、濃密な舞台になりそうです。

甘く見てましたね…。最初はせりふもいっぱいあるのでうれしかったんです。これだけのせりふを舞台上でしゃべれるってすごい幸せなことだなって。そう思ってたんですけど…。
それって実は怖いことだったんだって、ここまでの稽古で痛感しています。

――アクションなど派手に見せる要素がない、会話劇の難しさについてはどう感じますか?

言葉の裏に描かれていることが多すぎて、どうしゃべろうかとか、お芝居ってこんな感じだったっけみたいな難しさを感じています。

――柳下さんは、「せりふを聞くんじゃなくて、感じてほしい」とおっしゃっていました。

そうですね。宮田さんもおっしゃってたんですけど、お客さんが裏を見られるようなお芝居じゃないといけない、ただせりふをしゃべって状況を説明しているだけではいけないと。やっぱりドキドキしていたいからって。
それはより役者が少人数になればなるほど大切なんですよね。大人数だったら、人が入ってきたらパっと空気が変わったりするんですけど、それを3人でずっと続けていかないといけないっていうのが…難しいです。

――プレ稽古で作ってきたものを、せりふで直接的に説明するわけではなく、芝居でにじみ出させなきゃいけないわけですね。

そのハードルがすごく高かったんだって気づいてしまったんです…。

――稽古が進む中で変わっていくこともあるんですか?

演出はどんどん変わっていきますね。1週間目はとりあえずせりふを覚えようということだったんですが、皆さんほぼせりふが(頭に)入った状態で稽古に入られて。稽古1日目からみんな立って芝居をしている状態でした。そこから超スピードで3日間で最後まで通して。
そのあと、このせりふだったらこう動くみたいな動きをメインにつくっていって、じゃあ次は深めていこうか、というのが今の段階です。

――ここからは細部にこだわり、作品の密度が高まっていくんですね。

そうですね。いままでも細かかったんですけど、昨日あたりからさらに…はい…。

――舞台は毎日上演します。フィリップは変化していくキャラクターなので、次の日は最初の変化前の彼の状態からの芝居ですよね。とても難しそうですね。

難しいと思うんですけど、それよりも宮田さんの演出に付いていくのに必死すぎて…そこまで考える余裕がないです。

蜷川幸雄作品に出演して、いい方向に“7度くらい”変わった

――平埜さんは「劇団プレステージ」に所属されていますが、今回のような客演との違いはありますか?

役者だけに専念できるっていうことが一番大きいですね。「プレステージ」ではいろいろ裏方もやるので。

――具体的にどんなことをされるんですか?

企画はリーダーがプロデューサーと考えたりして、演出を誰にお願いするかとかを話し合います。もちろん僕も意見を言ったりして。
演出家、脚本家が決まって、チラシをどうするかをデザイナーさんと相談したり、小道具は何が必要かなどの会議をしたり。お金もないので、なるべく自分たちでやるんです。

――お金の管理もするんですか?

最初に予算を組んで、みたいなかたちですね。制作部とか演出部とかチラシパンフレットチームとか、一応部署を分けてやっています。

――そういう裏側を経験できるっていうのはいいことだと思います。

今は実際にやっているから大変だなと思うんですけど、やってなかったら分からないことがたくさんあったと思います。
(チラシを見ながら)「オーファンズ」では全部やっていただいているので、何かしなきゃいけないんじゃないかってちょっと不安になっちゃうんです(笑)。仕込みにこなくていいとか掃除しなくていいとか。
「プレステージ」の外に出ると、役者は役者として演技に集中して、スタッフさんはスタッフさんで役者が心地よく演技できるように動いてくださる。そういう役割分担がきっちりあって、みんなでひとつのものをつくるのが不思議だなっていうか、プロフェッショナルな環境にいるんだなっていうのを実感しますね。

――「オーファンズ」と同じ時期に「プレステージ」の公演もあります。気になりますか?

気になるというか…何で?って(笑)。LINEグループで楽しそうなのが回ってくると、ちょっとムカつきますよ(笑)。NON STYLEの石田明さんが脚本を書いてくれて、リーダーが演出して…そりゃ楽しいだろうなって。

――ここで“役者・平埜生成”について掘り下げたいと思うのですが、そもそも役者になったきっかけは?

きっかけというのがないんです。両親が映画やテレビの関係の仕事をしていて、小さいころに現場に付いていったりしてたんです。そういうところから始まって、ドラマがすごく好きで自分もいつかこういう世界に入るんだろうなって思いこんでいて。で、最初は中学2年のときにエキストラみたいな感じで映画に出て。それから高校生活を普通に過ごしていて、どれも6割くらいまでしかできなくて、勉強も5割くらいしかできなくて…(笑)。なんかホントに何もできなくて、どうしようって思っていたんです。

――そのときは役者になりたいっていう気持ちは?

もうなかったです。無理だって思って。でも高校生活で何にもやることがなくて、もう1回やってみようかなって。それから事務所に入って、「プレステージ」というわけの分からない(笑)劇団に入って。そこから今に至ります。

――(笑)。“わけの分からない劇団”でキャリアを重ねてきた平埜さんにとって役者業は楽しいですか?

一昨年、蜷川幸雄さんとお仕事をさせていただいて、それでいい方向に“7度くらい”変わった気がします。完全に自分の中で変化がありました。今の自分の価値の無さを痛感したんですよね。

――なるほど。演じること自体の醍醐味はどんなところにありますか?

現段階でいうと、「誰にでもできるけど、誰にもできない」んだなって…思います。普段からうそをつくことってあるじゃないですか。それってもうお芝居ですよね。
“ぶりっ子”をするっていうのも、まさにそう。かわいい子を演じるっていう。

――確かに。そこら中に名女優がいますね(笑)

ということを考えたら、「私役者です」って宣言したら「そうですか」ってなっちゃうなって思うんです。ただ、その中で「でも、誰にでもできるものではないな」っていう部分が難しいなって。

自分に投影して見られるお芝居です

――好きな役者さん、気になる役者さんはいますか?

吉田鋼太郎さんがすごく好きなんです。特に吉田さんの舞台が好きなんですけど、エネルギーが人と違いすぎて。
吉田さんの「シェークスピア」の芝居が好きで。せりふのうまさというか…、とにかく光りまくっていて。
ほかにも、間宮啓行さんという役者さんが好きです。「ロミオとジュリエット」はメインどころの役は全部やったんじゃないかみたいな人なんですけど。せりふの饒舌さというか。
吉田さんも間宮さんも、芝居を見ていてすごすぎて笑っちゃうんです。「シェークスピアってこんなに面白かったのか」って思わせる芝居を見せてくれる。それはすごく作品を理解しているっていうのもあると思うんですけど、あんなに楽しそうに演じている方はいないなって。

――舞台を見るときは役者目線で見ていますか?

本を意識して見ちゃうんですよね。作家がどんなことを役者にしゃべらせたかったのかっていうのを一番意識して見ています。もちろん役者の芝居も見るんですけど、全部見終わって、作家が何を言いたかったのかを考えて、芝居を振り返る感じですね。

――自分が演じるならこうしたい、みたいなことは考えますか?

考えますね。その作家はこういうことを言いたかったのかな、そしたら役者はこういう芝居なのかなということを考えます。あと、最近は照明とかも見ちゃいますね。どこで照明を入れるのかとか、音のタイミングとか。音楽自体はよく分からないんですけど、タイミングや見せ方は気になります。

――自分の考えるタイミングと違ったら気持ち悪いと思ったりも?

ありますね。うわ!ヌルっと入ったな!とか。でもそれは役者のせいか?と思ってみたりとか。そういうふうに芝居を見ていて、全部が気持ちがいいと笑っちゃうんですよね。うわ~、すげえ!みたいな。

――映画はご覧になりますか? 映画よりも舞台ですか?

映画も見たいと思っているんですけど…。映画は匂いのするものとしないものがあって、匂いのある映画しか見られないというか。

――最近、気になった作品は?

ちょっと前ですけど、塚本晋也監督の『野火』ですね。あんなに匂いのある映画は久々に見ました。

――本数をたくさん見るタイプではなさそうですね。

バーっと見るわけでないですね。選んで見ています。

――邦画が多いですか?

そうですね。あとアニメも見ます。新海誠さんとか。アニメは面白いですね、今。いろんなものに興味がありすぎて、最近よく分かんなくなってるんですけど(笑)。
先日テレビで『魔女の宅急便』を見て、あらためてなんてすごい映画なんだって。背景とか、これにどれだけの時間が割かれているのかとめちゃくちゃ考えちゃって。自分に照らし合わせて考えると、自分は何にもしてないんだなって…。

――平埜さんは一役者であると同時に、作品を作る側という意識が特に強いように感じますね。

「作品を作る」っていうところの意識が高くて、役者は演技のことだけをっていう意識があまりなくって。このカンパニーでスタッフさんみんなで同じものを作るのが僕たちの仕事で、例えば音を入れやすくするには僕はどう芝居をすればいいのかとか、それがどういい作品につながっていくのかとかを考えたりしますね。

――演出や脚本には興味はないですか?

やってみたいです。でも、「オーファンズ」の稽古を経験して、芝居以外のほかのことをやっている暇はないなって思い知りました。違うことをしている時間はもったいないなって。

――それでは、最後に「オーファンズ」の見どころと意気込みをお願いします。

お話自体はすごく分かりやすいんです。孤児の兄弟の間に第三者が現れて、兄弟が変化していく。そのときにそれぞれが何を考えているのかとかはいろいろあるんですけど。
今回は2幕制で、お客さん的にも負担の少ない芝居で、何の気兼ねもなく見られて、もしかしたら明日への活力にもなるんじゃないかなと思っています。
自分にとって自分を変えてくれた人ってどんな人だろうって、身近な人を自分に投影して見られるお芝居なんじゃないかと思います。
特に僕と同い年くらいの方は、みんな僕と同じようなことを考えて、よく分からない葛藤をしていると思うので、ぜひ楽しんで見てください。

 

PROFILE

平埜生成●ひらの・きなり…1993年2月17日生まれ。東京都出身。
アミューズの若手俳優集団「劇団プレステージ」のメンバーとして、舞台、ドラマ、映画と幅広く活躍。
生成(きなり)は本名。

オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/hirano-kinari
公式twitter:@kinarichan


作品情報

舞台「オーファンズ」

脚本:ライル・ケスラー
翻訳:谷賢一
演出:宮田慶子
出演:柳下大 平埜生成 高橋和也

■東京公演
2016年2月10日(水)~2月21日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト

S席:6800円(全席指定・税込)/高校生以下4000円(全席指定・税込・数量限定)
※未就学児入場不可

■兵庫公演
2016年2月27日(土)~2月28日(日)
新神戸オリエンタル劇場

S席:6800円(全席指定・税込)/A席:5800円(全席指定・税込)
※未就学児入場不可

公式サイト(http://orphans.westage.jp/

□チケット
各プレイガイドにて好評発売中
東京公演
【チケットぴあ】
0570-02-9999[Pコード:447-225]

http://pia.jp/t/ (パソコン・携帯)

セブンイレブン、サークルK・サンクス、チケットぴあ店舗

【ローソンチケット】
0570-084-003[Lコード:35500]
0570-000-407[オペレーター対応]

http://l-tike.com/ (パソコン・携帯)

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【e+(イープラス)】
http://eplus.jp/ (パソコン・携帯)

ファミリーマート店内Famiポート

【東京芸術劇場ボックスオフィス】
0570-010-296(休館日を除き10:00~19:00)

http://www.geigeki.jp/t/(パソコン)
http://www.geigeki.jp/i/t/(携帯)

兵庫公演
各プレイガイドにて好評発売中
【チケットぴあ】
0570-02-9999[Pコード:447-178]

http://pia.jp/t/ (パソコン・携帯)

セブンイレブン、サークルK・サンクス、チケットぴあ店舗

【ローソンチケット】
0570-084-005[Lコード:54911]
0570-000-407[オペレーター対応]

http://l-tike.com/ (パソコン・携帯)

ローソン、ミニストップ店内Loppi

【CNプレイガイド】
0570-08-9999

http://cncn.jp/k-o/

【e+(イープラス)】
http://eplus.jp/ (パソコン・携帯)

ファミリーマート店内Famiポート

【新神戸オリエンタル劇場チケットセンター】
078-291-9999(電話 10:00~18:00/窓口 11:00~18:00)

◆販売注意事項:0570で始まる電話番号は、一部の携帯電話・PHSからはご利用になれません。
 音声自動応答での受付番号はダイヤル回線からのご利用はできません。
 プッシュ回線またはトーン信号の出る電話機からおかけください。

◆チケットに関するお問合せ:
[東京]サンライズプロモーション東京
TEL:0570-00-3337(全日10:00~18:00)

[兵庫]キョードーインフォメーション
TEL:0570-200-888(全日10:00~18:00)

◆公演に関するお問い合わせ:
ワタナベエンターテインメント
TEL:03-5410-1885(平日11:00~18:00)